塗り薬といってもさまざまなものがあります。蕁麻疹の際などに塗るステロイド軟膏、抗生剤の軟膏、鎮痛剤などで、一般的に薬店で購入できるものにはメンタムなどの塗り薬もあります。そして抗生剤は菌の増殖を防ぐ、もしくは菌を殺してしまうという役目を持っていて、ステロイド剤は体の過剰な防御反応を抑える働きがありますので、細菌が増殖して炎症を起こしているところにステロイド入りの軟膏を塗ると、そこで細菌と戦って
いる自分の体の免疫系を押さえ込んでしまい、細菌に味方するといったことになります。
別の患者さんが、体のある程度深いところが細菌感染のために蜂巣織炎という状態になっていました。これは黄色ブドウ球菌が原因となって起こる感染症で、皮膚表面より深いところで起こり、全体が赤くはれ上がり、痛く、熱を持ちます。黄色ブドウ球菌はとても耐性菌を作りやすいので、抗生剤の投与には注意が必要です。気まぐれな飲みかたをすると命取りになりかねないのです。このあたりのいきさつを、黄色ブドウ球菌の立場から見てみましょうか。
美味しい餌の豊富な場所を見つけてそこで自分たちに快適な環境を作り、せっせと子作りに励んでいたところ、あるとき毒水(つまり抗生物質)が自分たちを取り囲んだ。多くの仲間がその毒のために死んでしまった。その毒のために味方はだんだん追い詰められ、せっかく築いた陣地もどんどん切り崩されていく。もうだめかと思ったときに、急にその毒が弱く
なった(つまり患者が抗生剤を飲み忘れた)。
そのときに生き残っていた仲間たちは比較的毒に強いほうだったし、毒そのものが弱く なってきたので、それまでに破壊された橋頭堡を作り直し、再度子作りを始めた。しばらくしたらまた強い毒を含んだ水があふれかえって
きたが、自分たちの子供はその毒に強くなっていたので、難局を乗り切り、陣地を壊されることも無くなった。しかし毒が強いときにはひたすらじっと我慢の子。時々
毒が弱くなるので、そのときに活動していけば良い。そのうち、子孫の中には強い毒の中で平気で活動できるのが現れ、彼らの子孫がどんどん増えていった。もうどんなに毒が高濃度になっても平気だ。
さてそんな状態になってしまうと、もうだめです。次に抗生剤をその時点で感受性のあるものに替えたとしても、そのときに敵陣が強固に守られてしまっていたら、なかなか内部に入り込めなくなりますし、また飲み忘れて敵
に付け入る隙を与えてしまう、ということが起こります。例え指先に出来た蜂窩織炎でも腕ほどまでに腫れ上がり、指を切断した頃には手首を炎症が越えていてさらに体幹に近くまで波及する、などということになる可能性が高くなるのです。
《次週に続く》
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