2014年7月4日金曜日

*二つ の「ペスト」-その1*


前項でペストについて簡単に取り上げましたが、ペストと聞くと蚤が媒介する伝染病で、放置すると死亡率が とても高い伝染病を思い浮かべるのが一般的でしょう。日本でも流行したことがあったのです。明治の中ごろ、神戸にペストが持ち込まれ ます。それを水際で防いだのが北里柴三郎とその同僚たちでした。

ペストの蔓延を防ぐだけでなく、ペストの保菌者となるネズミが野生のネズミの中に紛れ込むのを阻止する必要があり、当時ネズミ一匹を5銭で買い上げることでネズミ社会へのペストの拡散を食い止めたのだ そうです。

 わが国には ネズミの天敵である猫を家に飼う風習があり(しかも魔女の生まれ変わりとして猫を焼き殺したりしなかった)、ペストを媒介する蚤(ケオプスネズミノミ)が生息に適しない環境だと言うこともあって、南の国のように定期的に小流行を繰り返すと言うことにはならなかったようですが、ほかの蚤でもこの病気を媒介できるので、ペストの侵入を食い止めたのは、本当に間一髪と言ったところでしょう。偉大な先輩たちの努力に感謝!しかし今日ここで取り上げるのは感染症としてのペストではありません。 

 若い頃に小 説を読みふけった方はご存知だと思いますが、カミュと言うフランスの小説家の作品に「ペスト」と言うのがあります。アルジェリアのとある町をペストが襲う。軍隊が町を包囲して感染している可能性のある人を町に閉じ込めてしまう。その町の中は閉鎖空間となって猖獗を極める。その中でさまざまな登場人物のドラマが展開すると言うもので、フィクションとは思えない、鳥肌が立つような小説です。カミュはこの小説の前に「異邦人」と言う小説を書いており、両者の作風の違いが議論の俎上に乗ったこともありました。

 わが国では ペストよりもコレラのほうが恐れられた病気でしょう。コレラは江戸時代に何度か江戸で流行しており、明治から大正時代になっても複数回の大流行を見ています。コレラの恐ろしい症状は「仁」と言う漫画で詳細に描かれていますので、ご存知の方もいるでしょう。しかし、ヨーロッパではペストがとても恐れられています。何しろ中世ヨーロッパの大流行の際に人口の1/ が死んだとか2/3が死んだと言われているのです。

 《次週に続く》

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