2014年9月4日木曜日

ドラッグストアでの血液検査



ドラッグストアやスーパーで手軽に血液検査ができると言う事になりそうです。もしそのお店のスタッフなり、臨時職員などが採血すると医師法に引っかかるので、自分で指の先を切って少し出血させて、それを測定に使うと言う事らしいのです。この新制度には問題がたくさんあります。もともとこの制度を導入するのは膨らみ続ける医療費を抑制するためとのことですが、かえって医療費を膨らませることになるかもしれません。私がこの制度に危惧感を抱く理由を挙げていきます。

1. 測定精度の問題。皮膚を小さく傷つけて出血させ、それを集めて分析に回すとのことですが、皮膚の表面に付着している汗などの影響は、採集する血液が少ないほど受けやすくなる。採血は静脈からと言うのが正確さの上では大事です。しかも、採血部位によって検査結果が異なります。たとえば動脈採血と静脈採血で結果が異なります。血液検査はそれほど微妙なので、指の先からなどと言う、今まであまりやっていない方法だと、基準となるデータがないので、正常値や異常値の境界があいまいになります。

2. 一般的に言うと、検査結果を見て自分の体の状態を判断することはできないだろうと思います。当然です。ご自身の専門分野ではないのですから。そして検査結果を伝える、お店のスタッフなどが、したり顔で「高脂血症ですね」とか「悪玉コレステロールが高いですね」などと助言をする場面が目に浮かんでしまいます。一知半解と言うか生兵法と言うか、とても危ない事です。

 例えば悪玉コレステロール(以後LDLと書きます)が高い値を示したとき、自動的にその薬であるスタチン系の薬物を処方する訳には行きません。LDLが高くなる原因としてはそれがたくさん作られる場合と、分解されにくくなる場合に分かれますが、後者の場合にスタチンを処方してもさして効かないからです。日常診療の中で、かかりつけのお医者さんが毎月一度顔を見ながら(時に諸検査をして)判断することです。漫然とスタチンを投与しながら、どんどん病状が悪化するのを放置、と言う可能性があります。

3. 血糖値が高いと言って、血糖降下剤を勝手にお店で処方したとしましょう。どの程度の高血糖に対して(肝機能、腎機能などの精査が必要)どの薬を処方するかと言うのは、とても難しい。全く効かないのも困るけど、低血糖発作のせいで植物状態になるのも困ります。そうした危険な薬剤を売りつける訳ではないとしても、妙なサプリを売りつけて売り上げ倍増、ほくほく顔と言うのはお店だけです。

 TVの宣伝でも注意してみていてください。どのサプリも特定の病気に有効、とは言いません。TV視聴者が勝手に有効であるように勘違いさせる言い回しと動画を組み合わせているのです。たいてい痛くなるのは腰とか膝とか肩です。その辺をTV画面上で軽妙な音楽に合わせて動かしながら、明るく運動している場面をかぶせる。そして○○で健康に!などと言って、○○がその整形外科領域の疾患に有効であるように見せているのです。

 しかし○○に有効、と言うためにはまず動物実験をして、安全性を確認し、次にボランティアを募って人間で安全性を確認し、それから大規模な臨床実験を経る必要があります。 サプリはそのすべての行程をすっ飛ばしていますので、「有効」と言ってはいけません。皆さん、頭髪が薄くなってきたときに髪の毛を食べれば自分の頭が少し濃くなってくると思いますか?関節の痛みに対して、関節包内の成分を服用するのは、髪の毛のたとえと似ています。

4. 指先に小さな傷をつけて出血させる、そのことが「血管迷走神経反射」を引き起こすこともあります。これは最悪の場合、心臓の拡張状態での停止を引き起こすので、非常に重大な副作用と言っていいでしょう。気分が悪くなったと言って備え付けのソファに横になって、30分ほどしてお店のスタッフが声をかけたら冷たくなっていた…そんなことが起こる可能性も否定できません。この血管迷走神経反射には特効薬がありますが、それは注射薬なので、医師以外が行うと医師法違反になります。

5. 感染の問題もあります。消毒をきちんとしていないと感染する可能性があり、最近かなり一般的になってきたMRSAなどによるものだと、とても厄介です。特にお年寄りの方などは抵抗力が落ちていますので、MRSAによる感染症が致命傷と言う事もあるかもしれません。

 以上のようにドラッグストアやスーパーでの血液検査はかなり疑問の残るものです。なぜ、このような方法を導入するのか。病院の窓口で支払う際には保険が適応されますので、実際にかかった費用の3割、高齢の方だと1割(もうじき2割になるかも)です。残りは国庫から、政府はここを節約したい。ドラッグストアで検査する場合には保険適応になりませんから、国庫の負担は減ります。そしてサプリを購入して、プラセボ効果である程度病気がよくなると、これも医療費の抑制になる、そう考えたようです。

 絶対にスーパーで採血して血液検査してはいけない、とは言いません。しかし誰も責任をとらない大きな危険が口を開けていることを忘れないでください。もちろん、どうにもならない段階まで病が進んで、病院でベッドに縛り付けになってから臍を咬むというのは処世訓としてもあまり感心しません。自分の命、自分の健康です。妙な宣伝に乗っかったり、妙な思い込みで行動しないでよく考えてから結論を出しましょう。

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