2014年10月30日木曜日

歩行と膝関節症


 人は2足歩行します。4速歩行の際に、地面から離れている足が常時2本なのか3本なのか、あるいは1本なのか、そのあたりの事情は知りません。孫を背中に乗せてお馬さんごっこなどやってみても、動物の4速歩行とは似ても似つかぬ歩行形態ですので、参考になりません。二足歩行の際は、常にバランスを崩しながら立て直すということをやっています。どちらの足が接地しているときも体の重心は足の内側にあり、そのために膝関節の内側に余計に体重がかかります。

 ですから長いこと歩いていると、膝関節の内側が余分に磨り減って俗に言うO脚になります。そしてO脚になるとよけいに内側に荷重がかかり、そのために関節の内側の軟骨面が磨り減りやすくなるのです。そして関節軟骨がほぼなくなってしまうと、ひざの屈伸のたびに激痛が襲う…それへの対抗手段として、膝の関節内にヒアルロン酸を注入するという治療法があります。ヒアルロン酸は潤滑油であると同時に抗炎症作用という性質を併せ持っています。

 従って、関節包内で骨質がこすれて起こる炎症を鎮めますので、関節軟骨磨耗の初期にはある程度効きますが、完全に磨り減ってしまうと、その効果もかなり限定的になってしまいます。ではどうすればいいか。こういった変形による不都合はそれが起こってから病院で対症療法をするよりも、起こらないように工夫することのほうが快適に過ごすことが出来ますし、たいていお金もかからない。起こらないような工夫を以下に述べます。

 歩行は先に述べたように片方の足を前に出すときにバランスを崩しながら動的にバランスを保っているので、その一歩一歩を出来るだけO脚にならないようにする。女性だったらモンロー・ウォークなどという言葉でおなじみでしょう。一本の白線の上に足を交互において歩く。その際交互に足を出すときに両膝がこすれあうようにする、その心がけだけで、O脚になるのをずいぶん遅らせることが出来るはずです。

 男の子は中学生くらいの年頃のときに、妙にいきがって足を逆ハの字にしてO脚で歩いたりしている人がいますが、将来の変形性膝関節症予備軍かと思うと、ため息が出てきます。人工関節にかかる実費は片方で100万円をくだらないのです。高齢者だと、一割負担だから10万円の出費で済みますが、いろんな制限が出てきますし、残りの90万円は保険のほうからの負担で、これも人工関節の部品を作っている会社は潤いますが、全体としては国が潤うものではありません。それより、モンローウォークでいつまでも背筋を伸ばして元気に歩いているほうが何層倍もいい気分でいられる、そう思いませんか。


2014年10月23日木曜日

コレステロールの話


 コレステロールはステロイドという物質群のひとつで、体内の細胞膜を構成する、ステロイドホルモンの主要構成因子になるなどの重要な働きをしていますので、コレステロールを忌避するという態度は感心しません。巷では善玉コレステロールと悪玉コレステロールについて云々されていて、善玉を上げ、悪玉を下げるにはどうしたらよいかと質問されることも時々あります。今回はそのコレステロールについて考えていって見ましょう。

 ウィキペディアによりますと、『いわゆる「善玉/悪玉コレステロール」と呼ばれる物は、コレステロールが血管中を輸送される際のコレステロールとリポタンパク質が作る複合体を示し、コレステロール分子自体を指すものではない。善玉と悪玉の違いは複合体を作るリポタンパク質の違いであり、これにより血管内での振る舞いが変わることに由来する。これらのコレステロールを原料とする複合体分子が血液の状態を計る血液検査の指標となっている。』とあります。

 このコレステロールは食事から摂取されるものではなく、体の中で合成されます。これはデンプン質や塩分などと大きく違うところです。デンプン質は個別に吸収された炭素とか水素などが体内で合成されてブドウ糖などに変化するわけではないのですが、コレステロールは吸収された構成要素が体内で合成されて出来上がるのです。そして血漿中のリポ蛋白にくっついて体のあちこちに運ばれます。約3割ほどが脳神経系に分布していると聞いたことがあります。

 このコレステロール、善玉とか悪玉といわれているのですが、この善玉・悪玉を分けているのはコレステロールではなく、血漿中のリポ蛋白です。コレステロールとくっついているリポ蛋白の性状の違いで血管内でのコレステロールの挙動が違ってくるのです。それにデンプンや脂肪と異なり、コレステロールには貯蔵庫がありません。ですから余剰コレステロールは問題になりやすいとも言えるのです。

○○を食べる(飲む)とcholesterolを下げることが出来る、などという風評はかなり一般的です。例えばリノール酸を摂取すると悪玉コレステロールが下がるといわれていました。リノール酸はサフラワー油とかコーン油に多く含まれています。だからといってサフラワー油をごくごく飲み込んだらどうなるか、多分下痢になって体外に排出されることになるでしょう。それに近年の研究でリノール酸に上記のような効果はなさそうだとも言われています。

 中性脂肪が上ると悪玉コレステロールも一定の割合で上ります。しかし常識的な食生活をしている限り、それほどひどいことが起こるとは考えられません。常識的な食生活とはすべての食事をジャンクフードで済ませるとか、お酒と少量のつまみだけで過すといった極端な食生活を避けるということです。その地域で昔から取れている野菜、海草、肉と魚を極端に濃い味付けを避けてよく噛んで美味しく頂く、そして体を動かし、時々日の光を浴びて生活していくことが一番いいのではないでしょうか。体の一部が極端に老化するのではなく、全体が同じようなペースで老化していく、これが理想です。

2014年10月16日木曜日

早く歩くと長生きするか?


3年ほど前にメディカル・トリビューンという医学系雑誌で『高齢者の歩行速度と生存期間が関連』という記事を読んだことがあります。高齢者のケアなどの計画を立てるために、余命について予測することで、より効果的な対応が可能になるとの立場から、Studenski博士らが歩行速度と余命についてメタデータの解析を実施したというもの。居酒屋での雑談だったか、食事中だったかに友人にこの研究のことをしゃべったことがあります。

 それを聞いて、一人が『じゃあ、早く歩くようにしなくちゃ』と応じたのです。そのとき私は別段反論をしませんでした。しかし、その速歩氏は統計結果について、因果関係と前後関係、相関関係について重大な思い違いをしているなと思ったものです。例えば身長と体重で考えて見ましょう。一般的にいって身長の高い人は体重も重い。もちろん長身の割りに軽量級の人もいますし、逆に背が低いのに重量級という人もいます。しかし1000人ほど無作為に集めて、身長と体重をX-Y平面にプロットすると、まず間違い無しに正の相関を示します。しかし誰も身長を伸ばすために体重を増やそうとは考えない…

 歩行速度と余命についても、この調査結果は『早く歩くことが寿命を延ばす』といっている訳ではないのです。観察結果として、通常歩行の速度を測定すると、その時はやく歩いている人のほうが長生きという結果を観察したというもので、速歩によって長生きできるというものではありません。もっと有り体に言えば、高齢になっても早く歩ける人は多くの場合、とても元気だから長生きしているということであって、速歩によって心血管系が鍛えられて、長期間いろんな臓器がちゃんと働くようになるというような理屈を述べているわけではありません。

 この世の中には、単なる相関関係と因果関係が分かり難いものが多くあります。中には、両者を取り違えるように誘導するようなものもあります。気をつけましょう。誰かが何かを主張するとき、その背後に何か隠れていないか、それを見る眼を養っておくことはさまざまな局面で正しい選択をするときに必要なことだと思うのです。


2014年10月10日金曜日

病人と医療の関係


 私たち医療従事者は基本的に西洋風の医療の知識を教えられてきました。その西洋風の医療についての知識や考え方も、実は最近今日の考え方の基礎が出来上がってきたのです。それまではどちらかというとウィッチドクターというか、現在の我々の眼から見るとかなり奇異な、そして一般的な了解の得られないような見方をしていました。現代にも残る『悪液質』という呼び方にその当時の病に関する人間の捉え方というか、生命観が現れています。

 むかし、血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の4種類を人間の基本体液だと考えられていました。そして人間の身体には数種類の体液があり、その調和によって身体と精神の健康が保たれ、バランスが崩れると病気になるとする考え方(体液病理説)一般的で、古代インドやギリシャで唱えられたそうです。インドからギリシャに伝わったとも言われています。この考え方は、病理解剖学が現れる19世紀あたりまで一般的でした。悪液質という呼び名も、この体液病理説に沿ったネーミングです。

 病理解剖によって、人体の組織と疾患が対応付けられるようになると体液病理説は姿を消していきましたが、その代わり、病における症状は病の本質を表すものと偶発的なものとに分けられるようになっていきます。例えば、上気道感染における体温上昇はその感染症の本質的な部分ですが、その熱の上り方の個体差は偶発的なものとされます。そして病を理解するためには個体差にあたる部分を出来るだけ切り離して、本質的なところだけを見るようにするという姿勢が一貫してとられる様になります。

 つまり、我々が正確に診断するために持つべき『まなざし』は、個々の病からその本質を抽出するべきであり、一人ひとりの病気の具体的な症状にとらわれるべきではない、とされるようになりました。診察室でのさまざまな検査や問診などは、従って、出来るだけ一人ひとりの生活史と無関係に、没個性的に行うのがいいという風潮が出来上がっていったのです。そのことが『病院で人間扱いしてくれない』という不満が出ることにも繋がっていきます。

 診断は無機的、没個性的、非人情にというのが大まかに言って近代以降の臨床医学の要求だったのです。最近、認知症など、人間の心を扱う分野では、没個性的に、機械的に、客観的学問の装いを前面に出して、というのが間違いではないかといわれ始めています。それがユマニチュードという言葉とともにフランスから取り入れられようとしています。これについてはまたこのブログで取り上げることもあると思います。

2014年10月2日木曜日

糖質制限ダイエット


 ここで糖質とは炭水化物のことです。炭水化物制限ダイエットといったほうが正確なのですが、糖質制限ダイエットのほうが言葉の響きが良い、といったことでその様な語法が定着したのだと思います。糖質制限ダイエットとは、従って、甘いものを我慢するダイエットのことではありません。このダイエットには二つの潮流があるようです。ひとつはアトキンスと言う人が言い出した方法で、炭水化物を120g以下に押さえる。にんじんやジャガイモだけではなく、たまねぎなどにも炭水化物は含まれていますし、小松菜やほうれん草などの葉物野菜にもわずかに含まれています。

 だからアトキンスさんの言う方法に従うと、かなり食べ物に不自由します。それに食生活がかなり偏ったものになりそうです。加工していない肉や卵には炭水化物がほとんど含まれていないので、どうしてもそういった動物性の食べ物に偏るのです。もう一方の方法はリチャード・バーンスタインと言う人が唱導したもので、炭水化物を1日130g以下に抑えるもので、これはほぼ全員が実行可能なものです。私もかぼちゃや根菜類の使用をある程度控え、ご飯は一食に1/4合としています。

糖尿病関係の医師の中には糖質制限ダイエットに反対する人もいます。食べ物が関係しているからでしょうか、推進派と反対派の意見の対立は学者らしい冷静なものとばかりは言えない様な局面も見えます。糖質制限が二人の立ち位置の違う医師によって唱えられたので、反対派の人たちの反論が若干の混乱を見せています。その多くは、アトキンス・ダイエットで心血管系の病気が助長されると言う観察結果(それも正式に万人から認められたものではない)を見て、糖質制限食全般を攻撃すると言うものです。

いろんな人の千差万別のライフスタイルで、一律にこうしろとは言いにくいのですが、柔軟に考えていけばいいと思います。サラリーマンだったら、朝トーストを一枚くわえたまま玄関を飛び出すなんてこともあると思いますが、牛乳一杯をそれに付け加えることでそれほど時間ロスが生じるとは思えないので、牛乳を飲むようにする。昼は職員食堂で簡単なものを食べる(例えばうどん)のであれば、夕食では野菜と肉・魚だけにして、ご飯類を避けるといい具合に糖質制限ダイエットが出来ます。

私は、この食事法をほぼ8週間ほど続けていて、体重が1.5kgほど減りました。一年続ければ9kgほど減るはずです。これが取らぬ狸の皮算用になるか、ちゃんと9kg減って足取りが軽くなるか、一年後にもう一度、結果をご報告したいと思います。