2014年10月16日木曜日

早く歩くと長生きするか?


3年ほど前にメディカル・トリビューンという医学系雑誌で『高齢者の歩行速度と生存期間が関連』という記事を読んだことがあります。高齢者のケアなどの計画を立てるために、余命について予測することで、より効果的な対応が可能になるとの立場から、Studenski博士らが歩行速度と余命についてメタデータの解析を実施したというもの。居酒屋での雑談だったか、食事中だったかに友人にこの研究のことをしゃべったことがあります。

 それを聞いて、一人が『じゃあ、早く歩くようにしなくちゃ』と応じたのです。そのとき私は別段反論をしませんでした。しかし、その速歩氏は統計結果について、因果関係と前後関係、相関関係について重大な思い違いをしているなと思ったものです。例えば身長と体重で考えて見ましょう。一般的にいって身長の高い人は体重も重い。もちろん長身の割りに軽量級の人もいますし、逆に背が低いのに重量級という人もいます。しかし1000人ほど無作為に集めて、身長と体重をX-Y平面にプロットすると、まず間違い無しに正の相関を示します。しかし誰も身長を伸ばすために体重を増やそうとは考えない…

 歩行速度と余命についても、この調査結果は『早く歩くことが寿命を延ばす』といっている訳ではないのです。観察結果として、通常歩行の速度を測定すると、その時はやく歩いている人のほうが長生きという結果を観察したというもので、速歩によって長生きできるというものではありません。もっと有り体に言えば、高齢になっても早く歩ける人は多くの場合、とても元気だから長生きしているということであって、速歩によって心血管系が鍛えられて、長期間いろんな臓器がちゃんと働くようになるというような理屈を述べているわけではありません。

 この世の中には、単なる相関関係と因果関係が分かり難いものが多くあります。中には、両者を取り違えるように誘導するようなものもあります。気をつけましょう。誰かが何かを主張するとき、その背後に何か隠れていないか、それを見る眼を養っておくことはさまざまな局面で正しい選択をするときに必要なことだと思うのです。


0 件のコメント:

コメントを投稿