2014年12月18日木曜日

ヒヤリハットと医療事故

 誰が考え付いたのか、ヒヤリハットという言葉があります。仕事をしているときにヒヤリとしたけど難を逃れたとか、危うく一大事になりかけたことにハット気が付いたと言うのを『ヒヤリハット』と言う言葉で表したもので、危機管理をする上で、とてもポピュラーになった言葉です。話によると、100件のヒヤリハットに対して、重大事故が1件か2件か起こるらしいのです。だから日常業務の中でヒヤリハットそのものを減らせば重大事故は減るはずだ、そういう思いから各事業所の内部でヒヤリハット事象を取り上げて、その原因を分析すると言うことをやっているのでしょう。

  バンクーバーで留学生活を送っているときに聞いた話ですが、人工心肺装置に組み込まれている温度計が壊れて、患者に45℃に温められた血液を送ってしまい、その患者が死亡したと言う事故があったそうです。回路の暖かさを手で触って確認すると言うことをやっていたら、防げた事故だったと思います。日本でも人工心肺に絡んだトラブルはいくつもあります。拍動流ポンプを使ったもので、回路に高圧の空気が送り込まれたと言うのを聞いたことがあります。

  回路を供給する際に当然滅菌しますが、その滅菌に使う毒性の強いガスが回路内に残っていて、そのために重大事故になったというのも聞いたことがあります。そのほか、院内の酸素と炭酸ガスの配管を大元のところで逆につないでしまったためにとんでもない事故が起こったと言うこともありました。手術室や病棟では酸素吸入に酸素が必要ですし、手術をしている場所に炭酸ガスが必要なこともあります。

 毎日壁の配管に医療機器を接続することになりますので、そこでトラブルが起きないように、ピン・インデックスと言って酸素の配管と窒素、圧縮空気、炭酸ガスなどで接続プラグが異なるようにしています。そうした医療ガスを使用する最終段階でのミスは起こらなくなっているのですが、おおもとでつなぎ間違えていると、実際に臨床的な不都合が起こらない限り現場の人間は気が付きません。

 以上は重大事故の例でした。ヒヤリハットの例としては薬剤を入れる仕切り棚の中でアドレナリンを入れるべき場所にそれと外見が良く似ているアトロピンをいれていた、などというのが良くありました。最近はアンプルの外見がずいぶん異なるようになったので、聞かなくなりましたが。微量注入ポンプが壊れて、内容がすごい速さで注入されたと言うのもありました。その内容がアドレナリンだったりしたらとんでもないことになっていたことでしょう。

  入院中の患者さんに関係したものでは、ベッドから落っこちたと言うのがもっとも良く聞くものです。ベッドの高さを低くすると、転落時のダメージは減らすことが出来ますが、介護がとても大変になってきます。スタッフの腰痛を訴える比率が倍増、しばしば労災で治療を受ける必要があるとなると、これまた大変で、人手不足に拍車がかかります。ベッドや患者さんの体に各種センサーをつけ、怪しげな動きをしていたらすぐ駆けつけるようにしていても、わずかな隙を潜り抜けて転落する人がでてきます。

 病院は、ある意味ご家族を介護から開放すると言う意味もあるのですが、まるでこちらに転落に関する真剣勝負を挑んでいるような患者さんに対して有効な手を打てないのも事実です。そういったときにご家族に付き添いをお願いすることがあるかもしれません。

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