2015年12月24日木曜日

虚血性心疾患:狭心症と心筋梗塞 – その3


供給される酸素と燃料(心筋では中性脂肪をよく利用します)の不足が深刻になると、心臓の筋肉は酸素消費量の少ないモードに移行しようとします。もちろん頭から心臓のペースをつかさどっているところには『もっと働け』と言う指令が届きますが、働くのに必要な兵糧が届かないと戦意喪失状態に陥ってしまいます。その状態が心室細動で、そんな状態になると個体は死んでしまうのですが、どんなに苦しくても心室細動にならないと言う固体がどこかで発生しない限り、心筋虚血に陥った際に心室細動に移行しないと言う進化の圧力は働きません。

ですから、心筋の酸素不足がある程度以上深刻になると、心室細動に移行してしまいます。もちろん心筋虚血の部位や範囲によっては心室細動に至らず、心筋壊死が生じることもあります。その場合には先に述べた亜硝酸剤を服用しても痛みが去らず、強い痛みを訴えながら循環器か専門病院に救急搬送されることになります。一方心房にある心臓のリズムをつかさどる指令塔(洞房結節と言います)から二次指令塔(房室結節)を経て心室に指令を届ける経路のどこかに小さな心筋梗塞が発生すると、不整脈と言われる状態になります。どこが侵されるかによって不整脈の種類が異なります。

 現在狭心症や心筋梗塞に対する治療としては、その病状の深刻さにもよりますが、カテーテルを用いた治療が一般的です。カテーテルとは細い管で、X線透過性のない素材で出来ていて、透視画像を見ながら血管内を進めていき狭窄のある部位にたどり着いたら先端にある風船を膨らませて狭窄を押し広げます。そして広がったところにステントと言われるつっかえ棒を入れて、せっかく広がったところがまた狭くならないような手段を講じるのです。

 人によっては冠動脈の細いところが何十箇所も狭窄を起こしていて、ステントで対応できないものもあります。そうしたケースでは心筋のいたるところで部分的な繊維化が進んで段々動きが悪くなってきます。動きが悪くなると、代償製に心臓がサイズ・アップするのですが、基本的に幸せな経過を辿りません。そうした心筋に対する外科的な介入としては現在でも数十本の血管吻合は実際的ではありませんので、心臓移植が最も理に適った方法となるようです。


2015年12月9日水曜日

虚血性心疾患:狭心症と心筋梗塞 – その2


 食べたものが吸収されて血流に乗ると、余剰の成分がいろんなところに取り込まれるのですが、そこに別の要素が加わると、血管内にその余分な成分が蓄積しやすくなります。別の要素とは、大体ご想像のとおりだと思いますが、飲酒、喫煙、運動不足、糖尿病などの生活習慣病、ストレス、睡眠不足、偏った食習慣、そして本人に全く責任のない遺伝的素因などです。ストレスだって本人に責任はない?しかし数十年も日本の社会で生きているのですから、ある程度のストレス発散・回避の術は身につけておくべきではないでしょうか。

 体を走り回っている血液の通路たる血管にほころびが生じた場合、道路工事の作業員のような役割を果たすものが出てきてそこを何とかする、という都合のいい話はありません。血流障害が少しずつ進行した場合には、一応道路工事のバイパスに当たる血管のバイパスが出来ます。最も有名なものは『メドゥーサの頭』と言われるもので、肝硬変になって肝臓の血流が著しく悪化すると、本来肝臓を通って消化吸収されたものの一時処理をする部分をバイパスして腹壁の静脈に血流が逃げます。そして心臓に還っていく。その人の上半身を診ると、腹壁をまるでメドゥーサの頭のように血管が蛇行しているのが観察されます。

心臓の筋肉の間を縫って走る冠動脈にも、もし動脈硬化性病変で狭窄が出来た場合、それがゆっくり出来ていく場合だと、血流の不足した部分にそのバイパスが出来ていきますので、その状態で狭窄の程度がひどくなっても心筋の酸素要求量は、安静にしている限りそのバイパスで賄えます。しかし急ごしらえのバイパスでは、酸素要求量に合わせて血流を調節する機能が不十分であり、激しい運動などに晒されると心筋の酸素要求量が大幅に不足します。

 酸素が不足すると、一般的には狭心症と言われる症状が発生します。つまり胸がやたら痛くなる。胸から背中にかけての放散痛だったり、みぞおちの辺りが痛んだりと、痛みの場所は一定しませんが、かなり辛い痛み(自分自身の経験がないので、痛みの性状などを自分の言葉で書くことが出来ません)のようです。その狭心痛には亜硝酸剤が良く効きます。この服用なしでも痛みは多くの場合10分かそこらで治まります。

  次回は虚血性心疾患の治療に触れたいと思います。

2015年12月2日水曜日

虚血性心疾患:狭心症と心筋梗塞 – その1


 心筋梗塞というととても恐ろしい病気だ、そういった認識は多くの人にいきわたっていると思います。その心筋梗塞ととても近い病気として狭心症があります。その怖い病気について述べますので、できるだけ危険を回避するような生活を心がけてください。この項をお読みになって生活習慣が多少とも変り、虚血性心疾患になる人が少しでも減れば望外の喜びです。

 人の血管は全部をばらばらにして一本の管につなぎなおすと、10万キロほどになるそうです。その10万キロの血管は、もちろん新生児の頃には少し短いわけですが、加齢とともにだんだん痛んできます。台所の配水管を時々『パイプマン』などを使ってクリーニングした経験は御ありでしょう。配水管の内周に分厚く堆積した『汚れ』をこのパイプマンでお掃除しているわけです。そして配水管内の汚れは主に廃油由来です。

 当然のことですが、油をたくさん使う料理をする過程のほうが、配水管が短い時間で詰まります。一方油をたくさん使った料理をしても、余った油を新聞紙などでふき取ってそれを可燃ごみに回し、シンクに油が余りいかないようにしてからフライパンを掃除すると言う細やかな神経を使う過程ではパイプマン出動の回数が激減します。このような譬えは血管の内側に着く汚れ(=動脈硬化)をそれなりに説明していますので、まずそのことを踏まえて置いてください。

 ただし、私たちは食生活で廃油のようなものを血管内に流し込んでいるわけではありません。デンプン、蛋白、脂質、そして微量な栄養素を食物の形で消化管に取り込み、消化して細かい成分に分解し、それを消化管を走行している血管内に取り込み、肝臓に送り、そこで使い勝手がいいように加工して全身に送っているのです。もし消化吸収の段階で、体に充分存在するものを取り込まないなどのメカニズムが備わっていたら、いくら食べてもそれが原因で血管などの病気になる心配はないのですが、そんな人にはお目にかかったことがありません。

 『ギャル曾根がいるじゃないか』と言う声が聞こえてきそうですが、彼女の場合は必要な栄養素もなかなか吸収しないので、食糧事情の悪かった大昔であれば、生存し続けることが難しかっただろうと思います。もしかすると人によっては多少とも栄養素を選択して吸収する人がいるかもしれません。毎日卵を56個食べてもコレステロールの代謝が正常な人などが稀にいるからです。でも、多くの人は食べた分を吸収してしまいます。だから肥満が問題になるわけです。

2015年11月20日金曜日

今日のレシピ - 1


 私は単身赴任歴が長く、四半世紀以上に及びます。そして大部分の食事は自分で作っていました。時には食材というか、いくつかの植物(主にハーブ類)は自分で育てて、そこから作っていました。最近は健康に多少とも注意を払うようになりましたので、作る食事もどちらかというとヘルシーなものが多くなってきています。ですから、簡単に出来て美味しいものをいくつかご紹介していきましょう。今日はまず椎茸と鶏挽肉を使った一品です。分量は書きません。私は自分で作るときに分量を考えた事がないので、分かりませんが、料理に手馴れた人ならなんとなく作れるはずです。

 用意するものは鶏挽肉、梅干、椎茸、片栗粉、食用油、好みでおろし生姜
    椎茸は傘の開いた奴で半径が大きく、薄手のものが良い。鶏挽肉は旨肉でも腿肉でもどちらでも良い。梅干は昔ながらの塩分17%の奴。蜂蜜などを加えて、そのまま食べられるものは不適当です。
    椎茸の足を切り落とし、お皿の形状にしておく。
    挽肉に梅干の果肉を細かく刻んだ奴を混ぜて練りこむ。さっぱりした味を好む人はおろし生姜を加えても良い。
    梅肉と挽肉のミックスを椎茸の傘に内側から貼り付ける。傘のヘリのうちに巻いたところに充分つめておけばはがれにくくなる。
    挽肉部分に片栗粉をまぶす。
    フライパンを加熱、油をたらして、そこに囲う椎茸を肉の部分を下にして並べる
    しばらく蓋をして蒸し焼き、少し焦げ目がついたら裏返して椎茸の部分も焼く
    お皿に盛り付けて食事に供する。

 別に秘伝というものはありません。誰でも同じように作れば同じように出来る。しいてコツを挙げれば、焦げ付き難いフライパンを用いることでしょうか。鶏挽肉は動物性油脂の含有量が少ないので、その点でヘルシー。椎茸と梅干は野菜だと強弁できるかもしれませんが、これらを野菜に含めて野菜を沢山摂っていると威張るよりも、ちゃんと常識的な野菜を摂ることをお奨めします。次回は生野菜の食べ方を中心に。


2015年11月13日金曜日

帯状疱疹後神経痛の予防


 予防についても少し述べておきます。米国での研究では水痘ワクチンを数万人の50歳以上の成人に接種することで、帯状疱疹の発症を対照群の半分に、痛みを残す人を3分の1に減らすことができたと主張する報告があります。2006年に、米国では60歳以上を対象とする帯状疱疹ワクチンとして承認されたこのワクチンはいわゆる「水ぼうそうのワクチン(水痘ワクチン)」のことであり、数十年前に日本でも研究開発されたワクチンです。

米国のみならずEUなど30カ国以上で「帯状疱疹の予防目的」で広く使われています。日本でも20034月に高齢者(50歳以上)に接種することが承認されましたが水痘と同じく任意接種なので自費となります。免疫力が落ちてくる60代以上の高齢者で、帯状疱疹をしたことがない人には帯状疱疹後神経痛を回避するためにもワクチンの使用が推奨されます。

免疫抑制剤を使用することになった患者さんで、帯状疱疹ワクチン接種を受けたもの・受けていないものを対照に前向きコホート研究を行った研究があります。それによると帯状疱疹の発生率は免疫抑制剤使用後において、ワクチン接種により約42%低下しました。帯状疱疹になる人はストレスや疲労により免疫力が下がっている状態なので、慢性的に不規則な生活を送る事や、過度の疲労、心労を要する作業を続ける事は控えた方が良いでしょう。規則正しい生活と、十分な栄養の摂取、心の安静が必要です。そうは言われても…という方が大半だと思いますが。

この病気に関しては、患部を冷やすのは逆効果であす。外傷ではなく神経の病気であるため、冷やすとかえってウイルスの働きを助長するのです。温湿布・カイロ等で温めるのも良い(乾燥肌の人は温めると痒みが現れるため、やめておいたほうが良い)でしょう。また温めることは、後のちの神経痛の予防にもなります。水ぶくれ(腫れ部分)が破れると細菌感染が起こりやすくなります。また、入浴に関しては自分で判断しないほうがいいでしょう。水ぶくれが破れた状態で入浴すると、患部に細菌が付着し、状態の悪化に繋がる恐れがあります。

帯状疱疹後の神経痛が出たら、まず神経ブロックを施行するのがいいでしょう。当院で何人もそのように治療して、痛みをとるという実績があります。薬物による徐痛には限りがあるようです。いつまでも飲み続け、塗布し続けなくてはならないようです。硬膜外ブロックだと標準的な場合だと7~8回ほど(運がよければ最初の2回ほど)で、痛みが余り気にならなくなり、痛み⇒痒みに変化し、その後数回でその痒みも忘れがちになります。そのあたりで2週間分程度の飲み薬で治療は終了するということになるのです。

 痛みや痒みなどの皮膚知覚は個人差が大きいので、痒い痒いといって創部を引っかいてそこから感染するということがたまに起こります。もしベースに糖尿病があると、その感染が重大なものになりかねませんので、痒いだけだなどと多寡を括らず、受診してください。

2015年11月5日木曜日

帯状疱疹後神経痛と治療-3


 アシクロビル、ビダラビン、バラシクロビルやファムシクロビルなどの抗ウイルス薬が有効で、点滴・内服による治療により治癒までの期間短縮が期待できます。ただし、抗ウイルス薬は水痘・帯状疱疹ウイルスの増殖抑制効果しかなく、病初期に投与しないと効果が期待できません。よって、症状を緩和する効果が主となります。同時に安静にして体力を回復することも大切です。適切な治療が行われれば、早ければ1週間ほどで水ぶくれはかさぶたになり治癒します。程度により水疱部が瘢痕化することもあります。

神経痛様疼痛は、治癒した後も後遺症として残ることがあります。眼と関係する顔面神経で神経痛様疼痛が発症した際に、適切な治療をしなければ視力に影響が出ることがあります。神経痛様疼痛に対する治療法は確立していませんので必要に応じ対症療法として神経節ブロック、理学療法、非ステロイド性抗炎症薬、抗うつ剤、抗けいれん薬、レーザー治療などによって対処することになります。帯状疱疹後神経痛の治療法具体例として以下のようなものが挙げられます。(※印は保険適応外)

薬物療法
ワクシニアウィルス接種家兎皮膚抽出液(ノイロトロピン®
抗うつ薬(アミトリプチリンなど)
非ステロイド性抗炎症薬(アセトアミノフェンなど)
漢方薬(桂枝加朮附湯など)
塩酸メキシレチン
プレガバリン(20104月、新薬が承認され、一定の効果を上げている)
局所療法
カプサイシン、アスピリン、硝酸イソソルビドなど外用
神経ブロック
イオントフォレーシス
低出力レーザー

帯状疱疹の出現している時の急性期疼痛に対しては、アセトアミノフェン、リン酸コデイン、アミトリプチリンが欧米で使用されているようです。また、副腎皮質ステロイドの全身投与も急性期の疼痛を除去する作用があります。アミトリプチリンは日本では保険適用外の抗うつ薬ですが、早期に投与することにより帯状疱疹後神経痛を予防する事が出来るというデータがあります。そのために特に60歳以上の患者に対して使用されているようです。

2015年10月27日火曜日

帯状疱疹後神経痛と治療-2


 帯状疱疹は60歳代を中心に50歳代〜70歳代に多くみられるのですが、過労やストレスが引き金で若い人に発症することもあります。年齢が若いから軽症で済むとはかぎらず、その患者の抵抗力により重症度が決定されます。初期に軽症であっても、無理をすることでいくらでも重症化する疾患なので、要注意です。ごく稀に、骨髄移植に伴いドナーが保有していた病原体により移植後に発症する事が報告されています。

知覚神経の走行に一致して帯状に赤い発疹と小水疱が出現し、強い神経痛様疼痛を伴います。前兆としてだいたい1週間くらい前から違和感やぴりぴりした痛みを感じることもあります。三叉神経に帯状疱疹ができたときは注意が必要です。髄膜炎、脳炎にいたるおそれもあります。目の中にできると角膜炎や結膜炎を併発し失明に至ることもあります。また、まれに歯槽骨の壊死・歯の脱落が発生することもあります。

なお、歯槽骨以外の骨の壊死の報告はありません。耳の中にできると耳鳴り・眩暈などの後遺症を残すこともあり、顔面神経に帯状疱疹ができることがあり、顔面神経麻痺(ラムゼイ・ハント症候群)にいたることがあります。腰部や下腹部に生じた場合、排尿障害や排泄障害が生じることもあります。まれに、神経痛のみで発疹が出ないという病態があります。2週間以上治癒しない場合、免疫機能の異常が考えられます。

通常、皮膚症状が治まると痛みも消えますが、その後もピリピリとした痛みが継続する(=帯状疱疹後神経痛)ことがあります。これは急性期の炎症によって神経に強い損傷が生じたことで起きるのです。 急性期の痛みは皮膚の炎症や神経の炎症を原因としますが、帯状疱疹後神経痛は神経の損傷によるものなので、痛みが残った場合は専門的な治療が必要になる場合があります。 なお、この症状は、高齢者、皮膚症状が重症な人、または眠れないほどの痛みがある人に残る可能性がありますので、早期の治療が望まれます。

帯状疱疹はどういう形で何が出るかも不明ということもあり、早めの兆候を見逃さず、症状を過小評価しないことが大切です。特に顔面神経麻痺などは湿疹が消えても治療が遅れるとなかなか治癒しないこともあります。顔もしくは体にひどく痛い皮膚症状がでたら皮膚科に行くこと、また耳鼻科領域で顔面神経麻痺などが出たら、すみやかに治療に専念すべきでしょう。

臨床症状で一般に判断できますが、時に虫刺され、接触皮膚炎、単純ヘルペス、ジベルばら色粃糠疹、自家感作性皮膚炎、乾癬などの疾患と紛らわしいことがあります。血清診断では補体結合反応が一般的で、ペア血清で血清抗体価の上昇が診断の一助となります。皮疹の出現した日を第1病日とすると帯状疱疹では第45病日あたりから抗体価の上昇がみられます。ちょっと馴染みのないお話になってしまいました。次回はあと少し実用的なお話をする予定です。

2015年10月20日火曜日

職場同好会のハイキングと高原サミットのプレイベント


 1017日の土曜日に『秘境』に行って来ました。職場の仲間たち9名と一行の一人のお孫さんの合計10名でした。その秘境とは霧ヶ滝。落差70mのほぼ垂直の滝で、下の方では水が霧状になっていて、そのために滝つぼがないという状態です。林道から2.5kmほどのところにありますが、京阪神の山と異なり、随分自然に近い状態で、歩き難いと感じる人が多いのではないかと思います。このあたりは鳥取県との境界に近く、少し足を伸ばせば、鳥取県の雨滝とか筥滝までいけます。こちらのほうは駐車場から徒歩数分でたどり着くので、とても気軽に行けます。





 










 霧ヶ滝は2.5kmほどの距離があり、熊が出そうなことや、滑落して怪我をするとそのままこの季節だったら凍死してしまう危険性もあり、単独行動は慎むべきでしょう。滝に至るまでの道は歩いていて楽しいものです。お隣の県にある雨滝も落差が40mほどあり、水量が多いので迫力満点なのですが、私の個人的な意見を言わせてもらえば、霧ヶ滝のほうが風格が上だという気がします。その辺りは好みの問題もあるので、絶対にそうだとは申しませんが。かなり奥まったところにあり、人に知られていないのはちょっと残念です。往復5kmほどの距離をゆっくり歩いて4時間、ハイキングが終わったら林道を数分(車で)上流に走ると霧滝ヤマメ茶屋という食事処が出現します。


 深い山奥に建設資材を搬入するだけでも大変だっただろうと思うのですが天井の高い建物がそびえています。ここでは岩魚やヤマメを中心としたメニューを楽しめます。メニューは一種類だけで1800円、かなりリッチな食事です。季節ごとに内容は少し変わるようですが、岩魚の塩焼き、岩魚の刺身、ヤマメの天ぷら、吸い物、山菜等の天ぷらEtcとなります。美味しい食事を楽しんでいると、登山の疲れも癒されてきます。この茶屋は前もって電話予約しておかないと、食べ物にありつけません。連絡先は0796-92-2692(小椋さん)です。本来岩魚、ヤマメの養殖を行っているところで,食事はその方たちの好意で提供するもので、要求がある時のみオープンしています。
 







 







  18日には上山高原でイベントがありました。来年の秋に全国草原サミットを上山高原で開催すると言うのでプレ・イベントが行われました。狭い道路で蛇行しており前方視界が良好とはいえませんので、正面衝突などを避けようと思ったら、前方から対向車が来ることを前提としながら運転する必要があります。18日は好天に恵まれ、日差しが強くて肌の露出部が焼けました。餅つき大会などのイベントが用意されており、岡本町長の力のこもった杵使いで『若い者に負けんぞ』と言う声が聞こえてきそうでした。






2015年10月13日火曜日

帯状疱疹後神経痛と治療-1


 「1年の中で特に起こりやすいという時期はない」とされていましたが、宮崎県内の医療機関が19972006年に行った5万人近い大規模な集団に対する調査では、8月に多く冬は少なく、帯状疱疹と水痘の流行は逆の関係にあることが分かりました。この現象は、10年間毎年観測されたとしています。この調査とは別に、年齢的に水痘患者数の多い小児との接触の機会の多い、幼稚園や保育園の従事者には帯状疱疹の患者数が少ないことも明らかになっています。

 どうやらウイルスとの接触で免疫価が高くなり帯状疱疹が発症し難くなっていることがその理由のようです。 一般的には、体調を崩しやすい季節の変わり目に多く、基本的には一生に1回であることが多いのですが、2回以上罹患する人もいます(発症部位は異なることが多い)。再発するのは5%以下。ただし、全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病や後天性免疫不全症候群(AIDS)、骨髄疾患や免疫抑制薬などで免疫機能が低下していると短期間に何回も繰り返します。

 帯状疱疹の活性化時期には体液中に水痘ウイルスが存在する可能性があり、口腔内から検出されることもあります。また皮膚と皮膚の接触感染は勿論、体液感染や飛沫感染、物品を介しての伝染の可能性も否定できません。妊娠中に帯状疱疹を発症しても非妊娠時と経過は変わらず先天奇形は起こらないと云われていますが、帯状疱疹は胎児に感染するので、産婦人科での診察が必要でしょう。高齢者の場合、神経痛が強く残ることがあります。それを疱疹後神経痛、帯状疱疹後神経痛といいます。

 帯状疱疹としてではなく水痘として感染します。飛沫感染ではなく接触性の感染で、水疱の中に存在する水痘・帯状疱疹ウイルスが気管・気管支の中で増殖して水痘となります。発病した子供を抱くなどした場合、感染の恐れがあります。一度水痘になると、たとえ治癒しても水痘のウイルスが神経節中に潜伏している状態(潜伏感染)が続きます。ストレスや心労、老齢、抗がん剤治療・日光等の刺激などにより免疫力が低下すると、ウイルスが神経細胞を取り囲んでいるサテライト細胞の中で再度増殖する(再活性化する)ことがあり、この増殖によって生じるのが帯状疱疹です。

2015年10月5日月曜日

坐骨神経痛-2


 しばらくこのブログに手をつけていませんでした。気分的にとても忙しく、坐骨神経痛に関して、その続きを書いていく気力が沸き起こらなかったのです。言い訳はこの位にしておいて…腰部硬膜外ブロックと仙骨部硬膜外ブロックがありますが、外来では手技が容易で安全性が高い為に仙骨部硬膜外ブロックがよく用いられます。下位腰椎の疾患による腰痛や坐骨神経痛に効果が有りますが、薬剤が病変部に到達せず無効な場合も見られます。

 また、麻酔科以外の先生がこのブロックを行うときに、皮下に痛み止めの局所麻酔薬を予備的に注射すると言うことをせず、いきなり比較的太い針を突っ込む事が多いので、とても痛い経験をした方も少なくないようですが、麻酔科でこの手技を学んだ人たちであれば痛み止めをするはずです。痛みを訴えてやってきている患者さんにぎょっとするような痛みを加えるのは、同業者として余り感心できません。その際にはぜひとも麻酔科でこの手技を受けてください。腰部硬膜外ブロックでは、手技が難しいことに加えて、ブロック注射のあと2時間ほど臥床を強いられるので一般的ではないのですが、仙骨ブロックよりも効果的です。

 腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の坐骨神経痛に対しても最も即効性のあるブロックが選択的神経根ブロックです。ブロック直後はほとんどの場合疼痛が消滅しますが、穿刺時の痛みが強く、神経根損傷の可能性も有るため、漫然と何回も施行することはありません。坐骨神経ブロックは梨状筋症候群、帯状疱疹後神経痛などに対して用いられます。外来で容易に施行できますが、硬膜外ブロックや神経根ブロックに比べると穿刺部位の目印がはっきりせず、また坐骨神経痛の走行に個人差も有ることから、確実な効果を得ることはやや困難です。

 神経の圧迫がある程度の期間に及ぶと、その除圧を目的として手術を選択することもあるのですが、手術は症状の進行を食い止めるといった目的でなされると思っておいてください。死んでしまった神経は再生しないのです。しかし、手術を受ける人は、治療への過度の期待から、結果に不満を持つこともまれではありません。治療前に整形外科医から詳細な説明がなされていると思うのですが、期待が大きいと手術のデメリットや合併症への言及を聞き落としてしまうと言うことはありがちです。

 大昔、我々のご先祖が竪穴式住居などに住んでいて、トラや狼の脅威に曝されていた頃は、筋肉が老化・萎縮して腰椎辷り症を引き起こしたり、腰椎前が神経根を圧迫して腰痛を発生させるといった事態になる前にこの世とおさらばしていたので、腰痛が問題になることは無かっただろうと思います。腰痛や坐骨神経痛は、言わば現代医療と生活の質の向上の副産物だとも言えるのです。腰椎の前彎が起こらないように腹筋を鍛えたり、骨粗鬆症にならないように食生活等の生活改善で対抗するのがもっとも理に適った方法かもしれません。


2015年9月2日水曜日

坐骨神経痛-1

 坐骨神経痛とは一般に良く聞く名前で、かなりポピュラーなものですが、これは一群の症状についた名前であり、病名ではありません。坐骨神経は末梢神経のなかで最も太く長い神経です。第4、5腰神経と第1~3仙骨神経からなり、梨状筋の下を通って大腿後面を下行し、膝の裏で総腓骨神経と脛骨神経に分かれます。神経が腰椎の隙間から出て骨盤をくぐり抜け、お尻の筋肉から顔を出す間のどこかで、圧迫を受けた結果として発症するのが坐骨神経痛です。

 年齢により異なりますが、若い人の場合最も多いのは、腰椎椎間板ヘルニア、次に梨状筋症候群が挙げられます。腰椎椎間板ヘルニアは比較的急激に発症し、仰向けの状態で下肢を伸展挙上すると坐骨神経痛が増強する(これをラセーグ徴候といいます)のが特徴的です。ほとんどの場合、片側の坐骨神経痛が出現しますが、ヘルニアの位置や大きさにより両側に見られることもあります。梨状筋症候群は比較的緩徐に発生し、通常はラセーグ徴候が陰性となります。梨状筋間で坐骨神経が絞扼され、仕事や運動でストレスが加わり発症することが多いようです。

 一方、高齢者では変形性腰椎症や腰部脊柱管狭窄症などの変形疾患に多く見られ、また帯状疱疹により坐骨神経痛を発症する場合もあります。その他、年齢に関係なく特殊な疾患として、脊髄腫瘍や骨盤内腫瘍などが挙げられます。こういった腫瘍性の病変で坐骨神経痛を発症する場合は、痛みが非常に強く、保存的治療で治りにくいのが特徴です。

 原因疾患に関わらず、まずは症状を緩和する対症療法が主体です。日常生活の指導→薬物療法→理学治療→ブロック注射の順で治療を進め、それでも痛みが軽減しない場合や歩行障害、麻痺といった他の神経症状を合併する場合に手術が行われます。急激に発症する腰椎椎間板ヘルニアの場合、まずは安静が原則です。高齢者の変形性腰椎症や腰部脊柱管狭窄症などの場合、必ずしも安静が必要とは言えませんが、下位腰椎にかかる重荷を減らす目的で、長時間の座位姿勢を避けたり、コルセットを装着することも有用です。

 非ステロイド性消炎鎮痛剤の内服薬や坐薬が主に用いられます。比較的長期間投与される場合が多いため、胃腸障害などの副作用に注意しながら使用します。また、腰脊柱管狭窄症では神経組織内での血流障害が原因の一つと考えられており、循環改善を目的としてプロスタグランディン(PG)製剤の内服や注射も用いられます。温熱治療としてホットパックや極超短波などが用いられます。腰痛を合併する場合に牽引療法もよく用いられていますが、治療期間を短縮するほどの効果が有るとは言えません。しかし、リラクゼーションという立場からも疼痛を軽減させる一つの手段であると考えて良いと思います。

2015年8月24日月曜日

地域医療夏季セミナー2015 in 浜坂

 8月の20、21、22の三日間をかけて、兵庫県の養成医師の卵うち16名を迎えて「地域医療夏季セミナー2015 in 浜坂」を開催しました。医学部の学生さんたちですから、即戦力になるわけではありません。しかし、普段はあまり見かけることのない20歳前後の若い医学生を迎えて、とても病院がにぎやかになり、活気が出てきました。20日の午後に病院に到着、簡単な挨拶と各部署の案内の後、私はいったん若い人たちから離れ、普段の業務を行いました。そして19時ごろ、庁舎の多目的ホールに町民のみなさんをお招きして、病院の紹介、学生さんからの発表、そして質疑応答を行いました。
会場の椅子の8~9割がたが埋まりました

 こうした行事には必ずと言っていいほど、「院長あいさつ」なるものがついて回ります。私は、ご存知の方もおられるかもしれませんが、あいさつなどが苦手です。内心ひそかに『皆さん、こんばんは。今日はよくいらっしゃいました。以上。』といったことで切り上げてしまいたい、などと思っていましたら、病院の事務方が私の意図を事前に察知したのか原稿を準備していました。自分でも不思議なのですが、学会でスライドを前にすると、30分が1時間になっても、別段プレゼンに困ることはありません。

 一般的に挨拶では、高々2分ほどしゃべれば言い訳で、学会発表の際でしたらスライド2枚分程度なので、簡単に覚えられるはずです。ところが覚えられない。どうやら、読み上げるべき原稿として私に手渡されたものが私自身の言葉で書かれていない、このことがかなり大きいと思いつきました。いくつか表現を普段の私の言葉に置き換えてみました。文章を短くして記憶への負荷を小さくもしました。それでも覚えるのが難儀です。もしかすると記憶障害?そういえば、当院の八幡君が受け持つ外来に認知症外来と言うのがあるといってました…
発表した学生チーム、八幡医師、岡山教授、土江参事

 結局悪あがきはやめて、読み上げることにしました。ああ、格好悪い!!それはともかく、夏季セミナーは成功裏に終わったと言っていいでしょう。なんといっても、多目的ホールでの講演会がほぼ満席になるとは全く予想できませんでした。そして町民の方々を交えた質疑応答も、中には学生さんたちをたじたじとさせるものもありましたが、町民の方々の医療への思い、浜坂病院への期待などがにじみ出ていて、私たちにとっても大いに励みになりました。

 翌日は学生さんたちを歓待して、バーベキュー大会を行いました。
ウマハギを3枚におろして刺身にする副町長


浜坂を支える100 t の漁船
ミュージシャンが来てくれて会を盛り上げました




浜坂漁港の一角をお借りできたので、時折ぱらつく雨を気にすることもなく盛大にバーベキュー大会を盛り上げることができ、学生さんたちにこの新温泉町の現状を強く印象付けることができたのではないでしょうか。
『歓待していただき、厚く御礼申し上げます』と医学生代表より
このような試みは来年以降も続けて行きたいと思っています。どうか、こうした私たちの取り組みにご理解とご協力を賜りますよう、お願いいたします。m(_ _)m

2015年8月13日木曜日

脊椎の構造と痛みの発生


 脊椎の形態、運動面で正確に機能している場合に痛みが起こることはありません。つまり、腰痛は脊椎の機能ユニットやその周辺のどこかで痛みに感受性のある組織が刺激を受けて興奮していることになります。それは脊椎の機能障害を示唆します。痛みを起こしている状態の大部分が腰椎と仙骨のなす角度が増大したことによります。これは脊椎前彎と言われる状態です。運動と無関係に起こる腰痛の75%が脊椎前腕を有していると言うことです。そのあたりのことを以下に詳しく述べます。

 脊柱は分節が連結したものです。各分節は、脊椎の中での位置によって形に違いがありますが、ごく一部を除いてとても類似しています。胸の部分は背骨から前のほうに肋骨が出ていて、大きな管のような構造になっており、比較的構造が保たれやすくなっています。問題は腰の部分です。加齢とともに筋力は低下してきます。そうすると、背骨の自然なカーブを保つために作用していた腹筋の筋力低下のために、腰の部分の背骨が前方に大きく湾曲するようになります。

 脊椎前腕の最大のポイントが仙骨と腰椎の間の角度が大きくなると言う形で現れます。この角度が大きくなると、腰椎が前方に辷る(すべる)と言うことが起こり易くなります(腰椎辷り症)。この辷り症を起こさない様にする自然の対策は椎間板を楔形にして、腰椎体が前方にすべる力に対してブレーキをかけることですが、そのために今度は椎体後面が直接接触する(kissing supine)と言うことが起こります。これまた痛みの原因になります。またもう一つ、痛みの原因となる事を考えなければなりません。

 背骨の後方を構成する骨の上下間の隙間(椎間孔)が狭くなり、神経が圧迫されると痛みや痺れが見られるようになりますし、運動神経が圧迫されると力が入りにくくなります。こうした事態を避けるには腹筋を鍛えておくことが重要です。何もへとへとになるまで筋トレをする必要はありません。起床時に足を20度ほど上げる(両足を同時に上げるほうが望ましい)、その際に上体も20度ほど起こして、お尻を真ん中にしてV字形に30秒保ってください。そうしたら30秒休んで、さらに30秒の腹筋、30秒休んでもう一度という具合に3回やってください。

 両足を挙上する時に上体も起こす理由は、足だけ挙上すると背骨がそっくり返って、その位置でロックされてしまい、ますます背骨のカーブがひどくなる可能性があるからです。この運動を2ヶ月も続けると、姿勢が良くなります。もしかすると身長も伸びるかもしれません。大きく前方にカーブしていた背骨が少しゆるいカーブになるからです。もしかすると、計測上ではわからない程度かもしれませんが、姿勢が良くなると、腰痛発生の原因のひとつを除去することが出来ます。

 骨盤牽引も良い対処法です。その際、骨盤下のストラップを牽引することで骨盤を挙上させ、前彎を減少させることが出来ます。骨盤牽引と言うリハビリテーションは、引っ張っているときは気持ちがいいけど、その時間が終わると元の木阿弥、そう感じている方が多いと思います。しかし、痛みと言うのはとてもデリケートな問題で、ちょっとした事で大きく変わってきます。私など、若い自分に何かに頭をぶつけてうずくまっていたときに、よちよち歩きの自分の子供がそばに寄ってきて、頭にもみじ葉のような小さな手を添えて『痛いの痛いの飛んで行け~』とやってくれたら痛みが退いて行ったと言う経験があります。かように痛みは微妙な気分に左右されるのです。

 ですから、リハビリの部署まで歩いていって、信頼できる理学療法士の指導を受けてリハビリに励むと、それだけで痛みがある程度和らぐ人が少なくないと思うのです。そして、毎日の積み重ねで気が付かないうちに仙骨の角度付けが小さくなり、腰痛を起こす原因の一つがある程度取り除かれていると言うことも考えられます。要は辛抱強い積み重ねなのです。そうした方法で痛みが取れない場合、薬物を局所に注入すると言う手段がとられることがあります。

 筋、靭帯、椎間関節から起こる痛みに神経脱落症状が同時に見られることはまれで、横突起間靭帯付近に局所麻酔薬を注射すれば痛みが消えることが多いと経験上わかっています。消えない場合、そのあたりを電気焼灼することで痛みが消退することもあるのですが、この電気焼灼はそれなりに複雑な手続きが必要ですので、当院では行っていません。

 腰痛の発生には、高血圧や糖尿病のように生活習慣に起因する面が多いので、どこそこに行けば治してくれる、などと考えないで、自分で出来るだけ腰痛発生の原因を減らして健康で快適な生活を送るようにする、これが一番大事です。常識的なことしか書けないでごめんなさいと言うところですが、自分の健康は自分で守る、それが一番快適だしお金もかかりません。

2015年8月7日金曜日

加齢と腰痛


 高齢者の宿命として腰痛があります。腰痛の原因としては様々なものがあり、Ehrlichさん(腰痛を専門としているお医者さん)によると世界中の様々な文化圏で同様な発生頻度を持っているそうです。そして病院や診療所を受診する際の最も一般的な理由だと言われています。急性腰痛は治療とあまり関係無しに3ヶ月以内に治まるとも述べています。これは外からの恒常的な刺激無しに組織の損傷が治癒していくのに要する期間と言い換えてもいいでしょう。一方慢性腰痛は様々な問題をはらんでいます。外科的な方法で問題解決を図ることも少なくありませんが、満足できる結果になることは少ないようです。

 もちろん腰痛の中には脊椎や骨盤とそれを囲む筋肉に原因が無いものもあり、そちらのほうには腹部大動脈瘤が急に大きくなって破裂間際と言う奴とか、内臓疾患で痛みが腰背部に放散するために生じたものなどもあり、致命傷となるものがありますので、全部が全部痛み止めの貼付剤を処方すればいいといった安易な対処では時としてとても具合の悪い事態になる場合があります。もっとも、長いこと同じような部位が同じような具合に痛むと言う場合には、そういったことは余り考えなくてもいいと思います。

 物理的な原因による背部痛には、バイク事故、転落、骨粗鬆症による圧迫骨折、長期間のステロイド処方を原因とした骨粗鬆症などが挙げられます。他には椎骨の感染、骨腫瘍、椎体への転移等もまれにはあります。こうした原因の特定できるものはEhrlichさんによれば全体の20%以下らしいのです。英国では背部痛が原因の欠勤が延べ1億日にのぼるとされています。原因がはっきりしない背部痛は、一般に立位の姿勢と関係していると思われていますが、そうではなさそうです。ただし、肥満と妊娠後期は脊椎の不自然な『曲がり』の原因になりえます。そのほか舗装道路上でのジョギング、車の座席に長時間座りっぱなしなどというのも背部痛を誘発します。

 一般に腰痛に対する治療としては以下のようなものがあげられます。
1.        非ステロイド性消炎鎮痛剤
2.        麻薬
3.        コルセット装着
4.        筋トレ、リハビリや体操など
5.        ステロイド性消炎鎮痛剤
6.        三環抗鬱剤
7.        中枢性筋弛緩剤
8.        温泉
 
 いずれの手段を用いても、目指す腰痛の解消に至ることはまれです。特に慢性の腰痛に関しては、まず痛みがなくなることはありません。

1. 非ステロイド性消炎鎮痛剤は一応痛みを自制内に押さえ込むことが出来ます。しかし長期連用で様々な問題を引き起こすのです。消化管の『荒れ』を予防するために、胃粘膜保護剤などを同時に服用する必要が出てきますし、長期連用で腎臓へのダメージが顕在化することもあります。またその種類によっては心血管系に良くない影響を及ぼすと言う報告もあります。

2. 麻薬はお奨めできません。うつろな瞳と震える手で『薬(ヤク)をくれ~』などといっている姿を想像してください。冗談はさておき、麻薬の副作用は多岐にわたります。消化管の蠕動運動が抑制されますので、便秘になりがちです。胆嚢も胆汁がたまって柿羊羹のようになることがあります。服用量を間違えると呼吸したいと言う気持ちが消えうせることもありますし、蕁麻疹やかゆみの原因になることもまれではありません。

3. コルセット装着で一時的に楽になりますが、筋肉が萎縮して行ってやがてコルセット無しではやっていけなくなります。しかも、廃用性に筋肉が萎縮すると、コルセットが骨に当たってそこが痛くなると言うことも起こります。長期にわたって装着すべきではありません。

4. 筋トレ、リハビリや体操はきちんとやればそれなりに効果があるのですが、きちんとやることが難しい。同じような、そしてある程度肉体的な苦痛を伴うことを長期間反復して行うことは、多くの人にとって難しいものです。筋トレやリハビリの最大の難点がそこにあります。

5. ステロイド性の薬剤もまた一時的な効果しかなく、ステロイド性糖尿病、ステロイド性骨粗鬆症、電解質異常、ホルモンバランス異常、感染症にかかりやすくなるなどの問題が噴出するので好ましい解決策とはいえません。

6. 三環抗鬱剤は睡眠のサイクルに対して影響してくるので、服薬の時間やタイミングなどに神経を使う必要があります。

7. 中枢性筋弛緩剤も効果が限られています。むしろ急性腰痛症(ぎっくり腰など)に使うべきかもしれません。これは一過性の筋力低下を伴うので、転倒⇒骨折と言う危険が付きまといます。

8. 温泉療法はわが国で発達したもので、リハビリ施設などでも用いられることがありますが、効果の客観的評価が難しいので、一般化されていません。しかし泉質の良いぬるめの温泉にゆっくり浸かると疲れが取れるのは間違いありません。この方法の最大の難点はコストです。私は井筒屋さんの屋上の温泉が大好きなのですが、食事などを注文しないでそ知らぬ顔をして利用するのはルール違反ですね。

 ではどうすればいいのでしょうか。いくつかの原因については、早めに予防することが出来ます。その予防とは骨粗鬆症にならないようにすることです。男性は加齢による骨格の脆弱化が女性よりゆっくりやってきます。女性は閉経に伴って、カルシウム代謝が大きく変化し、骨粗鬆症の発生に向かっていきますので、それを予防することが大切です。まず骨に必要なカルシウムをちゃんと摂取することが大切です。

 カルシウムは消化管から吸収されて、血液に溶け込み、体のいろんな部位で大切な役割を果たしていますが、血液中のカルシウム濃度が低いと骨からカルシウムを借りてきます。赤字国債のようなものです。血中カルシウム値が上昇したら借りた分を返すことも出来るのですが、消化管からの吸収率も低下してきますので、返却できるようにはなりません。ですから、私たちが出来るお手伝いは、まずカルシウムの吸収を良くし、体で利用しやすいようにすること、そしてカルシウムが不足するときに骨から借りてくるのを邪魔すること(銀行の貸し渋りにあたる)です。さらに骨の組織で新たに骨格構造を作っていくということも考えられます。

 こうした治療法を組み合わせながら何とか腰痛をなだめすかして生きて行く。そういったことしか言えません。しばらく、私が当院で向き合っている様々な痛みについて、述べて行きたいと思います。