2015年3月31日火曜日

居眠り運転と睡眠時無呼吸症候群

 今まで居眠り運転をしたことはありませんか?知り合いで、バイク運転中に居眠りしていたなどと言うやつがいますが、怖いですね。私も一度居眠り運転して、後ろから来るトラックにクラクションを鳴らされ、パッシングされてやっと眼が覚めたという経験があります。昼間眠いのは夜間の睡眠中に無呼吸となり、良眠が得られなくなることが原因だとされています。これを睡眠時無呼吸症候群といい、SASと略記します。SASと言うと英国陸軍の特殊部隊を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、ここでは睡眠時無呼吸の略称として用いることにします。

 多くの人が20歳前後と比べると体重増加を経験しています。そして、こいつは太っているな、と思える人はよく居眠りをする。だから肥満とSASは結び付けられますが、解剖学的にも肥満して口から喉の辺りにある脂肪の量が増えるとその脂肪の重量のために気道が(特に仰向けに寝たときに)狭くなり、睡眠中にその気道がふさがれます。ある程度の時間が経つと血液中の二酸化炭素の量が増えますので、呼吸に対する強いドライブがかかり、深い深呼吸のような呼吸が再開し、しばらく正常な呼吸を繰り返します。そしてしばらくすると再び呼吸が止まってしまいます。

 SASの原因は肥満のほかに、下顎が小さいとか、扁桃肥大などで生じる気道の狭窄などがあります。対処法としてはCPAP(気道に陽圧をかける)療法、スリープスプリント(マウスピースを用いて下顎を前進させる)、そして口蓋垂、郊外扁桃、軟口蓋の一部を切除して気道を広げると言う外科的な療法があります。CPAP療法もスリープスプリント装着も鼻や口腔内に妙なものをくっつけるので、それこそ睡眠障害を引き起こしそうなものですが、CPAP療法によって昼間の眠気が完全に取れたという例を知っています。

 SASの治療は保険適応になっているので、SASの診断が確定したら、一ヶ月に一度医師の診察を受けながらCPAPの装置をレンタルして使うと言うことになります。診断が確定して、治療を決めたら、業者さんが機器をご自宅に持参してくれます。3割負担の方で月々5000円前後だったように記憶しています。その装置ですが、旅行などにも持参することが前提となっていますので、どの会社から出ているものも基本的に小型で携帯が負担になるというほどのものではありません。

 診断はポリソムノグラフと言う機械を使って行います。機械を貸し出すか、入院していただき、夜間睡眠中のデータを解析することになります。当院でも4月からSASの診断と治療に本格的に取り組んでいく予定です。SASは睡眠中に本人の自覚のないままストレスホルモンが上昇することから糖尿病、高血圧、循環器系の疾患を悪化させるとの報告があり、健康に齢を重ねたい方にとって、SASは大敵です。多少とも肥満気味の方はぜひとも睡眠中の呼吸を調べましょう。自宅での検査が鬱陶しいという方は12泊の入院で診断が可能です。もしSASと診断されたらCPAP療法を受けてください。

2015年3月20日金曜日

糖質制限ダイエットの顛末


 昨年の10月に糖質制限ダイエットについて述べました。自分がこのダイエット方法を食事にとりいれたのが7月末あたりですから、半年以上が経過しています。その結果、体重が6㎏ほど減りました。年末に血液検査の異常がどのようになっているのか知りたいと思い、検査してみました。肝機能はγ-GTPが長い事3ケタを記録し続け、悩みの種でした。「これはきっと遺伝的な体質に違いない」そのように結論付けたいと思ったことも幾度となくありました。

 たとえば何らかの遺伝病に伴うI型糖尿病などはもちろんインスリンを作る細胞が壊滅する事によって起こるもので、食事療法をいくら頑張っても糖尿病の病態が根本的に好転することはありません。しかし、食事と飲酒に伴うγ-GTP値の上昇は遺伝子の状態によって決定されたものではないのです。もちろん同じような生活習慣を持っている人で、かなり早期に糖尿病にまで進んだ人もいますし、肝炎になってしまった人もいます。一方で、全く検査結果に暴飲暴食の痕跡を残さない人もいるのです。そのあたりは、個人差と言うか、個人の遺伝情報によって影響を受ける範囲と言っていいでしょう。

 私のしつこい脂肪肝の兆候は、この糖質制限ダイエットで簡単に消えてしまいました。現在まで、私は一日130g程度の炭水化物をとるというマイルドな糖質制限食を行っています。そして週2(月曜日と木曜日)は夕食を抜いています。最初は月、木の両日に飲酒で空腹を紛らわせようとしていたのですが、どうもこれはよろしくないようで、プチ断食の日は観測小屋の内装にあてることにしたのです。それほどの重労働をするわけではないので、空腹のために倒れるなどと言う事はなさそうだし、気が紛れて疲労するので下宿に帰ったら熟睡が期待できると言う訳です。

 その努力の甲斐あって、体重もかなり順調に低下傾向を示していたのですが、検査結果を見てびっくりしました。肝機能がすべて正常、それも正常上限のあたりではなく、ほとんど真ん中あたりの優等生状態です。しかも血糖値の平均を表しているA1Cもずいぶん低い値になっています。このダイエット方法のいいところは、あまりうるさいことを要求しない点です。私は黒糖飴を一週間に一袋弱消費しています。その程度は大丈夫なようです。ただし、肉や魚の消費量がかなり増えたために、クレアチニン値が上昇し、BUNが正常上限辺りまで上がってしまいました。これは当然予想していたことで、自分的には問題ありません。

 このダイエットによって私の寿命が延びるかどうか、それはわかりません。私と全く遺伝的に等価な人間を見つけ出して、通常の食事を食べさせることで両者の死ぬ時の年齢を比較する、そういったサンプル(つまり一卵性双生児)を10組とかで調べれば、糖質制限食が長期的に体を健康に保つ(または健康を害する)ことが証明されるのですが、かなり困難です。だとするとランダムに10000人ずつのグループの一方に糖質制限食、もう一方に普通食を食べさせて比較することになりますが、本邦ではそのような研究があまり尊ばれていないようで、そうした研究の存在を知りません。

 しかし、今脂肪肝から肝炎に進行する瀬戸際の人とか、糖尿病がもうじき始まるかもしれない人(つまり食後高血糖がみられるがA1Cはまだ正常範囲と言う人)では、このダイエット法は効果があります。野菜(特に葉物)や魚、肉に関する制限が無いので、決して辛くはありません。週2回のプチ断食も慣れてしまえば大丈夫なのですが、これは一家団欒の食事の中で自分だけ食べないというのでは辛いと思いますので、これだけは環境が許すのでなければお勧めしません。今からでも検査結果を正常値に戻すことは可能です。頑張ってみませんか?

2015年3月13日金曜日

運動不足は肥満よりも危険


 医療従事者向けのWeb雑誌が複数あります。それらの中に上記のタイトルを見つけました。私も普段の生活は座ってばかりで、これではよろしくないと内心では考えていますので、その記事を読んでみました。そのついでに一部をはしょってご紹介しましょう。以下がその記事の内容(一部省略)です。

 座ってばかりの生活は、肥満の2倍有害である可能性が新たな研究で示され、「American Journal of Clinical Nutrition」に114日掲載された。しかし、120分の早歩き程度の運動により、早期死亡リスクを30%低減することも可能だという。

 研究の筆頭著者である英ケンブリッジ大学のUlf Ekelund氏は、「運動不足の人は、運動量をわずかに増やす努力をするだけで大きな健康効果が得られる」と述べている。このリスク低減は、正常体重、過体重および肥満のいずれの人にも認められたという。公衆衛生の観点から、身体活動レベルの増大は肥満の低減と同じくらい、あるいはそれ以上に重要であると付け加えている。

 今回の研究では、334,000人の男女のデータを収集。平均12年の追跡期間中、被験者は身長、体重、胴囲を測定し、身体活動レベルを自己申告した。その結果、全く運動しない場合に比べ、中程度の運動が早期死亡リスクを低減する鍵となることがわかった。1日に90110カロリーを消費する運動により、早期死亡リスクを1630%低減できると研究グループは推定している。

 中等度の運動による効果は正常体重の人で最も高かったが、過体重および肥満の人にも便益が認められた。最新のデータを用いると、ヨーロッパの男女において920万件の死亡のうち337,000件が肥満に関連するものであると推定されたが、運動不足に関連すると思われる死亡数はその2倍であったという。

 「ヒトの身体をみると、骨や筋肉は不規則な変わった形をしている。この筋骨格の構造から、人体は動くためにできていることがわかる」と、米ニューヨーク大学メディカルセンター(ニューヨーク)のSamantha Heller氏はいう。人体の運動への適応力は驚くべきものであり、有酸素運動は免疫系を刺激し、精神機能を向上させ、エネルギーを増大させ、筋肉や骨を強化し、心疾患、がん、糖尿病などの慢性疾患リスクを低減すると同氏は指摘している。

 以上で引用を終わります。毎日早足で20分歩くこと、この程度の運動であれば比較的取り組みやすいのではないでしょうか。もし、雪に閉じ込められて歩けない、というのであれば、ステッパーを買い込んで、屋内で運動をすることも考えてください。それでも充分有効性は認められそうですね。