2015年4月28日火曜日

「高価な」プラセボのほうが効果的―パーキンソン病患者の症状改善に違い

 とても物議をかもしそうな研究が医学雑誌に掲載されました。プラセボ効果ってご存知ですよね。そう、偽の薬を投与した場合、本物の薬ほど効果的ではないものの、投与しなかった場合よりも明らかに症状改善に繋がっている効果のことです。この効果は新薬を開発する際の効果判定にも使われます。新薬とプラセボ群で効果のほどを比較して、統計学的な差がなければ効果はないとするのです。さて、以下がその研究の要約です。一部省略してそのコピーをご紹介します。

 パーキンソン病患者を対象とした小規模研究で、薬剤価格によってプラセボ(偽薬)効果に違いがあることが示され、「Neurology」オンライン版に128日報告された。この研究では、12人の患者に対してプラセボ2薬を1剤ずつ、時間をおいて投与した。どちらの注射薬も実際には生理食塩水だったが、患者は一方の薬剤は1回分1,500ドル(約176,000円)の新薬であり、もう一方は1回分100ドル(約12,000円)だと告げられた。医師は患者に、どちらの薬剤も同様の効果があると断言していた。

 その結果、高価な薬剤を投与されていると告げられた場合、投与後4時間にわたって振戦、筋固縮などの症状の改善が大きくなり、MRIでも患者の脳活動に違いがみられた。これらのプラセボではパーキンソン病の標準薬剤であるレボドパほどの効果は得られなかったものの、高価なプラセボの効果は、レボドパと安価なプラセボの中間に位置した。さらに、高価なプラセボを投与した時の患者の脳活性はレボドパと同様であった。

 研究を主導した米シンシナティ大学医学部のAlberto Espay氏によると、パーキンソン病の場合、プラセボ効果は脳が化学物質ドパミンを放出することによって生じると考えられるという。パーキンソン病はドパミンを産生する脳細胞の機能不全によって生じるが、一方で脳は、「治療によって症状から解放されるかも」といった報酬を期待したとき、ドパミンを大量生産する。今回の知見は「期待」が重要な役割を果たすことを示すものだと、同氏は話す。

 この症状改善が長期的に続くものかは本研究では明らかになっていないが、患者が「薬」を信じているかぎり、効果は保たれるとEspay氏は考えている。同氏はまた、単に「これから処方する薬は高価だ」と医師が告げるだけでも、パーキンソン病や他の疾患患者の治療において、プラセボ効果がうまく作用する可能性があるとしている。

 医療機関で投薬を受けている方たちへ。私たちは決して薬の代わりに安価な生理食塩水を点滴内に加えることなどしていません。大きな病院では臨床試験などを行うことがあります。その際は『この研究はある薬の効果を見るための臨床試験である。臨床試験だから当の薬剤とプラセボのどちらかを投与する。この薬が薬剤かプラセボかは投与するスタッフも知らされていない。結果を判定する人間もどちらが投与されたか知らされていない』ということを告げられます。その上で臨床研究に協力するかどうかが問われるのです。

 もちろんその薬剤の投与と観察のための入院期間に生じた費用は全部病院もちということも告知されます。その様な手順を踏んで臨床試験を進めていきますので、赤字続きの病院が経営状況を好転するためにプラセボを投与するということはありません。しかも、ある薬を投与したら、その分を納入業者から仕入れなければなりません。その使用と購入が一致しないと簡単な調査でばれてしまうので、決してプラセボを投与することなど出来ないのです。

 医学論文の中には時としてここで例示したように人の悪いものがあります。何かを知りたい場合、時には『騙す』ことが必要になる場合もあります。プラセボの効果とそのからくりを知りたい場合など、ここに示したように、薬剤の投与を受ける人を『騙し』ています。人間の残忍な本性を探る実験として有名なものがありました。だいぶ昔の話ですが、『懲罰が学習効果に与える影響を調べる』と称して、被験者には『苦痛を与える』方を受け持ってもらい、モニター用の窓から別の被験者が苦痛に身もだえする様子が見えるようにする、という実験です。

 この実験では実は苦痛にもだえているのは演劇か何かを学んでいる役者さんで、苦痛のまねをしていたのです。そして被験者は苦痛を与えるほうで、罰則無しの場合、どんどん拷問の領域まで痛みを加えていくという仮説を検証するための実験でした。怪しげな(一見怪しげでないから困るのですが)実験への強力は避けたほうが良いかもしれませんね。

2015年4月21日火曜日

II型糖尿病と関連する癌は?

 糖尿病と言うと、現代日本でもっともポピュラーで厄介な病気の一つです。私たちは有史以前からの蓄積された種の記憶(があるとすればですが)のために、どうしても栄養源になるものを食べたいと言う欲求が慢性的に存在します。そしてあまり自制心のない人は必要量を大きく超えて食べてしまうのです。たくさん食べても糖尿病にならない人も居ますし、そもそも大喰をしていても太らない人もいます。TVで知名度の高いギャル曾根はその代表でしょう。

 たくさん食べたい、もっとたくさん食べたい、そういう欲求の強い方にとって、ギャル曾根のような人物はとてもうらやむべき人かもしれません。それほど極端でなくても、たくさん食べて太っていても糖尿病にならない人も居ます。体質と言うこともその理由のひとつに挙げられるかもしれません。しかしもしかすると食べ方などにもヒントがあるかもしれません。でんぷんをあまり含まない野菜を最初にたくさん食べるようにしている人は概して糖尿病になりにくいようです。

 その糖尿病ですが、何らかの原因でインスリンを作る細胞が破壊されて、そのことが原因で糖尿病を発症するI型糖尿病、過食と運動不足が原因で体細胞がインスリンに反応しにくくなり、インスリンを作る細胞も疲れきってしまうII型糖尿病の二つに分けることが出来ます。私たちがよく目にするWEB上の医学雑誌の中に、II型糖尿病と癌の関連についての報告の簡単な紹介が出ていました。糖毒性は免疫系などにも影響してきますので、医療従事者が、糖尿病患者は癌に罹りやすいのではないかと考えても不思議ではありません。

 その雑誌の記事の一部をご紹介しましょう。以下がそのコピーです。『ギリシャ・ヨアニナ大学医学部のKonstantinos K Tsilidis氏らは、2型糖尿病とがんの関連について、メタ解析/システマティックレビューを包括的レビュー(umbrella review)するという手法で大規模な検討を行った。その結果、大半の試験で関連性が有意であると強く主張していたが、バイアスの可能性がなく強固なエビデンスで関連性が支持されるのは、乳がん、肝内胆管がん、大腸がん、子宮体がんの発症リスクにおいてのみと少数であったことを報告した。BMJ誌オンライン版201512日号掲載の報告より。』

 Ⅱ型糖尿病は高血圧よりも自分自身の生活態度の反映と言う側面が強く出ます。自分で病気になって治療を求めにやってくる。多少好転しても生活態度を改めず、一見平衡状態で病の進展がないように見えるが実は水面下でじりじりと進行している。そしてある日からだの一部を切り落とす羽目になったけど、それだけにとどまらなかった…糖尿病とはそんな病気です。その糖尿病はそれ単独でも厄介なのですが、その上に乳がん、肝内胆管がん、大腸がん、子宮体がんの発生率が高くなる、ついでに申し添えておけば、糖尿病では傷の直りがとても悪くなります。ですから手術のリスクも当然かなり高くなるのです。

 糖尿病はとても厄介な病気です。例えば数年ぶりに再会した友と酒を酌み交わす、そのとき多少羽目をはずしても大勢に影響はない、と多くの人が考えます。実際影響は微弱です。しかしそこで羽目をはずす人はほかの局面でも羽目をはずすことが多いのです。そして病は進んでいく…水面下で進む病の進行を想像してください。やがて眼が見えなくなる、足が腐ってくる、腎不全になって透析の必要が生じる。全身の血管がぼろぼろになり、あちこちの臓器が突如痛み始める(血栓症)、そんな風に病状が進んでいきます。

 栄養指導を行う人が鬼のように見えるかもしれません。無理難題を言っているように思えるかもしれません。しかし、ある時期に食べ過ぎてインスリン分泌細胞が痛んで、体中の細胞のインスリン感受性が低下してしまったら、ツケを払うしかないのです。そのツケの取立ては容赦ない。そんな形でツケを払うのがイヤなら、最初から妙な形で体に悪いツケを溜め込まないこと。そのあたりの事情はサラ金地獄と似ているかもしれませんね。お食事は計画的に!

2015年4月6日月曜日

禁煙の勧め

 私が20前後の頃、本邦での喫煙率は60%を超えていたと記憶しています。先日、禁煙について資料に当たっていたら、今の喫煙率は21.6%だそうです。タバコを習慣的に吸う人は5人に1人といったところまで、喫煙者数が減ってきています。何でもそうですが、ある集団の構成員数が減ると、その集団は先鋭化する。喫煙者の集団の構成員数が減ったからといって、どう先鋭化するのかといわれても困るのですが、慢性閉塞性肺疾患の患者数は増加しているようです。

 この厄介な病気はCOPDとの略称が一般的になってきていて、多くの人がCOPDといったほうが話が通じやすいという状態になっているかもしれません。原因はタバコ、そのほかにも上気道をいたぶる様な刺激性のある微細な粉末や気体を慢性的に吸入することです。一般に気道は口や鼻から始まって、のどの奥、声帯、そして気管へと続きます。気管から気管支、細気管支へと枝分かれしていき、最後には肺胞に至ります。

その肺胞までの気道系は繊毛上皮に覆われていますが、その上皮細胞の一部の場所が杯細胞という別の細胞に入れ替わっています。杯細胞からは粘り気の強い液が分泌され、繊毛上皮の繊毛によってそれが全面に広げられます。そしてその上皮に備え付けの動くひげで上へ上へと押し上げられていき、声帯の直下まで来ると、喉がくすぐったくなって咳き込む。そのねばねばした液が痰として喀出されるという段取りになっております。気道を通った空気の中に含まれる様々な好ましくない物質がそのねばねばに絡めとられて、痰となって体外に排出されるのです。

長年タバコを吸っていると、先に述べた繊毛上皮が部分的に麻痺していきます。タバコの煙が一番強く当たるところから順を追って麻痺していくのですが、そのことで杯細胞で分泌された液体が引っかかってしまいます。しかし末梢のほうからは次から次へと分泌物が上ってきます。ある箇所でストップしてしまうと、その部分が詰まってしまいます。肺のあちこちで小さな部分が詰まり、その割合がある程度大きくなると息苦しさを覚えるようになります。

繊毛上皮は本来の仕事を果たさなくなるだけでなく、細胞そのものが扁平上皮へと変化してしまいます。これを扁平上皮化生といいますが、これは一種の腫瘍ですね。ある人は、細気管支の閉塞が進んでいき、日常動作に制限が加わるようになります。そして在宅で酸素を吸っていても息苦しさが直らなくなっていく。この状態をCOPDといいます。ある人は扁平上皮化生から扁平上皮癌へと進んでいきます。COPDの患者さんは肺がんになった人を羨ましく思うといいます。それほど苦しいのです。