2015年7月17日金曜日

骨粗鬆症と生活習慣上の対策


 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)という言葉を聴いたことの無い人は、現在のわが国では少数者でしょう。ある程度の年齢になると、特に女性に多く見られる、骨の支持力が低下するものです。女性に多く見られるのはエストロゲンというホルモンが骨の代謝に関わっていて、閉経の時期にそのホルモン量が低下することと関係しています。そして骨の密度が低下すると、骨がとても脆い海綿状になって、簡単な圧力で潰れたり(圧迫骨折:腰椎に多い)骨折(大腿骨など強い力の加わる長管骨に多い)したりします。

 骨の中の代謝は破骨細胞により骨成分を溶かすことと、骨芽細胞によって骨を作ることがほぼ同時平行的に進んでおり、動的なバランスを保っています。エストロゲンが減少すると、骨芽細胞の働きが鈍って骨の作られる速度が溶け出す速度を下回って、骨質がだんだん減少してくるようになるのです。また破骨細胞の機能はホルモンバランスの崩れで暴走しやすく、骨芽細胞の機能低下と破骨細胞の暴走が同時に現れると急激に発症する骨粗鬆症による異常骨折などが見られます。

 女性ホルモンのエストロゲンは女性にだけ存在するものではありません。男性でもエストロゲンが分泌されており、その分泌量の減少と骨密度の低下が相関していることは明らかにされています。女性のほうがもともとの骨量が少ないので、密度低下の影響が強く出やすいのですが、男性でも年齢を重ねると圧迫骨折などの異常骨折の頻度が高くなってきます。(余談ですが男性には卵巣が無いので、エストロゲンは構造的に似ているテストステロンから作られます。)こう書き記すと、『年をとったら骨粗鬆症になるので、こればかりはあきらめるしかない』と受け止められるかもしれませんが、いくつかの対策があります。

 これまでに述べてきたことから簡単に分かることですが、閉経前に骨密度をできるだけあげておけば、45歳前後から骨密度が低下し始めてもその影響が出る年齢を先送りにすることが出来ます。つまり若い頃に、充分日光を浴びて(ビタミンDがらみ)、カルシウムなどを充分摂取して、骨に適度の加重ストレスを加える(運動すること)様な生活を続ければ、骨粗鬆症になるリスクを先延ばしに出来ます。しかし、生活上の注意点としてはそれだけでなく、食生活にもいくつかの注意点があります。それについて解説します。

 骨にかかる加重ストレスは骨芽細胞の活動を活発にします。逆に言えば運動の習慣の無い、痩せ型の人はそれだけでもリスク・ファクターになります。カルシウムを不足させる動物性たんぱく過多の食事、ビタミンDやビタミンKの不足した食事、カフェインの摂り過ぎ、過剰なアルコール摂取は、食事面における危険因子となります。ニコチンやタバコに含まれるカドミウムが骨に対して毒物として作用するので、タバコも宜しくないのです。そしてカルシウム摂取に関しては興味深い現象があります。

 常識的に考えると、カルシウム摂取量が少ない場合血管壁などに沈着するカルシウム量も減るはずですが、それが増えて動脈硬化や糖尿病、高血圧などを引き起こす要因になるというもので、カルシウム・パラドックスと呼ばれています。このメカニズムは次のように考えられています。カルシウム摂取不足により血中カルシウム濃度が低下すると、副甲状腺ホルモンの働きにより骨からカルシウムが溶出し血液中に流入します。このカルシウムが血管へ沈着(動脈石灰化)し動脈硬化を引き起こすと考えられるのです。骨粗鬆症患者では動脈石灰化症による冠状動脈疾患・心臓病が多くみられることはよく知られています。

 一方、WHOレポートでは、骨粗鬆症予防のための項目で、カルシウムの摂取量が多い国に骨折が多いという現象をカルシウム・パラドックスと呼んでいます。この現象の原因として、カルシウムの摂取量そのものよりも、カルシウムを排出させる酸性の負荷を動物性タンパク質がもたらすという悪影響のほうが強いのではないかと推論しています。つまり野菜不足の肉食です。さらに、2007年のWHOの報告書で、酸を中和するほどのアルカリ成分を摂らないとき、中和のためにカルシウムが骨から溶け出して骨密度に影響すると考えられ、それを防ぐアルカリ成分として野菜と果物が挙げられています。

 メディカル・サイエンス・インターナショナルによると、砂糖や動物性食品はカルシウムを奪う「骨泥棒」とされ、骨粗鬆症の予防のためアルカリ性食品を摂取するように言及しています。また、糖分の豊富な飲み物や肉食などで発生した血中の酸を中和するのは骨の仕事だと解説しているのです。米国栄養学会の雑誌に掲載された報告に、野菜と果物を多く食べた子供は尿中のカルシウムの排出量が少なかったというのもあります。野菜と果物の摂取量が多いほど骨密度が高いという研究結果が老若男女それぞれにあるのです。

 最後は、栄養の摂り方一で逆効果になることがあるというお話で〆にします。これも逆説的ですが、疫学的調査で牛乳を良く飲む人ほど骨粗鬆症になりやすいという傾向が認められています。急激に上がり正常範囲を越えてしまったカルシウム濃度を下げようと負のフィードバックが働き、今度は下限値を越えてしまい、骨からカルシウムを補うということが起こっているようです。カルシウムを吸収されやすい形で取りすぎると、逆効果になると言うもので、こうしたことは肝に銘じておく必要があります。牛乳の害については次の紹介記事をあげておきます( http://landarzt.blog.fc2.com/blog-entry-956.htm )。

 普段食べる食物の中にジャコやオキアミなどをうまく取り入れて食べると言うのが一番いいのでしょうか。私は安価なオキアミの干したもの(縮緬ジャコは高価すぎる!)を数種類の野菜とともに炒めて食べています。これが骨密度を高めるかどうか、後10年後に私の背中が曲がっているかどうかで判断してください。次回は骨粗鬆症の治療について述べます。

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