2015年7月24日金曜日

骨粗鬆症の治療薬


 病院で骨粗鬆症の治療を受けるためには、まず骨粗鬆症であると言うことが診断される必要があります。別になんとも無いのに、『あなたは骨粗鬆症だからこの薬を飲みなさい』と言うような乱暴な話は認められないのです。これは他の病気でも同じで、ちゃんと診断をつけた上で治療をする、これが疾患に対する治療の原則です。もちろん、原因がはっきり分からないけどとても具合が悪い、そんなときにはまず対症療法をやりつつ、原因を探ると言う方法を採りますが、現代の医療では治療と診断が密接に結びついています。

 では骨粗鬆症の診断はどうすればいいのでしょうか。高所から落下したとか脊椎に対してとても過酷な運動(ウェイト・リフティングなど)をしたと言う事がないのに腰椎の圧迫骨折が認められ、悪性腫瘍などの痕跡がなければ、それは病的な骨折、骨粗鬆症と判断できる状態です。45歳を過ぎた女性では骨の特定の部位がどの程度X線を透過するかといった検査を行う事があります。これでその人の年齢の平均値よりも低い場合には骨粗鬆症と判断できるのですが、女性は男性よりもベースラインが低く、しかも加齢による骨量の落ち込みが急なので、女性の平均を採るべきではないと私は考えています。

 そして骨密度がある水準よりも低いときには薬物による治療を開始するのですが、骨量の低下がはなはだしい女性のほうが治療の選択肢はたくさんあります。そして骨粗鬆症の発生頻度は女性のほうが男性と比較して圧倒的に多いので、主に女性の骨粗鬆症治療について述べて行きたいと思います。ここで取り上げる薬は男性にも使えるものについて各々そのことを注記すると言う形でお話を進めましょう。

 歴史的に古いものにビスフォスフォネート系の薬剤(男性にも用いる)があります。これは破骨細胞の活動を抑制するものです。そのほかに利用できる薬剤には活性型ビタミンD、ビタミンK、カルシウム製剤の投与や、SERM・エストロゲン、遺伝子組換えヒトPTH(1-34)などがあります。エストロゲンの投与は乳癌の発生率を高める副作用があるので積極的にお奨めできません。SERM(ラロキシフェン、バゼドキシフェン)は閉経後女性にのみ有用です。一つ一つ見ていきましょう。

 ビスフォスフォネート系薬剤は服用法が煩雑だという欠点があります。毎朝、起床時(朝食前)にコップ1杯以上の水(180cc以上)で薬を飲み、服用後30分は食事を摂らず、横にもならないというもので、私の妻はこれで挫折しました。このような短所を改善するために近年、ビスフォスフォネート系骨粗鬆症治療薬の週1回服用型製剤が開発され、普及しています。毎朝服用するタイプか週1回服用するタイプかの選択はコンプライアンスの良し悪しで決まるとされますが、辛い思いは少ないほどいいと思いますね。月一回服用製剤も今では実用化されています。またFDAは大腿骨頸部骨折後の骨折予防にゾレドロン酸(ゾレンドロネート)の年1回静注を承認しました。

 大規模な効果判定がこのビスフォスフォネート系製剤についてなされていて、はっきり骨密度増加、椎体骨折予防、長管骨など非椎体骨骨折の予防において効果が認められるものとしてはフォサマック®やボナロン®など第二世代、アクトネル®、ベネット®などの第三世代のビスフォスフォネートが挙げられます。服用時の注意はどれも同じようなものです。この何らかの秘儀のような服用の仕方は、この群の薬剤がとても消化管から吸収されにくく、空腹時に飲んでしばらくじっとしておくことで逆流を防止し、その間に吸収させると言う理由があるのです。

 一方、ラロキシフェン・バゼドキシフェンはSERMと言う群に分類されるお薬で、エストロゲン受容体に対する部分的に作用する薬であり、骨代謝ではエストロゲンと同じ作用を示し、骨外ではエストロゲンに抗した作用を示すものとして作用するものです。この群に属する薬剤は先に上げたビスフォスフォネート製剤ほどの服薬時の煩雑な取り決めはありません。そしてこの薬の抗エストロゲン作用のために、高脂血症、乳癌のリスクも低下させる、一石二鳥の薬剤です。商品名はそれぞれエビスタ®とビビアント®です。

 活性型ビタミンD3製剤(男性にも用いる)はそれほど効果が認められているわけではありません。骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会における推奨度では、Bランク(先のビスフォスフォネート製剤やSERMは推奨度がAランク)に入ります。圧迫骨折に伴う痛みにはカルシトニン製剤が効果を示しますが、これは先の骨粗鬆症治療効果からすればBランクです。特徴は血液中のカルシウム濃度を上げることです。

 テリパラチド(男性にも用いる)は 遺伝子組換えヒトPTH(1-34)はヒト副甲状腺ホルモンのN末端1番から34番までのみを遺伝子組換えにより製剤化したもので、皮下注射であるため病院通いの回数が増えるという意味で服薬コンプライアンスには問題がありますが、骨量増加作用は上記の薬剤と比較して最も高いとされています。商品名フォルテオ®とテリボン®があります。テリボンは週一回の皮下注、フォルテオは毎日の皮下注で、これは自分で注射するものです。毎週1回通院するのは大変だと思いますが、自分で注射するのも敷居が高い、困ったものです。

 デノスマブ(男性にも用いる)は 抗RANKL抗体で破骨細胞の分化・成熟・活性化シグナルであるreceptor activator of nuclear factor κβ ligand(RANKL)に結合することにより、骨吸収を抑制するものです。つい2年ほど前に実用化されました。RANKLというのは、破骨細胞の形成、機能、生存において必要なタンパク質で、デノスマブはそれを抑制し、皮質骨、海綿骨の骨量を増加させます。この薬剤の作用は上記A-ランクの薬剤よりも強力だと言われていますが、最大のウリは半年に一回の注射でよいと言うものでしょう。

 私の知るところではまだ大規模試験が完了しておらず、テリパラチド製剤などに対する優位性が証明された訳ではないはずです。真の実用化にはあと12年かかると言うことでしょうか。ここに挙げた薬にはそれぞれ副作用があります。ビスフォスフォネート系薬剤とデノスマブには顎骨壊死と言う副作用が上げられています。歯の治療をするときなどには一時服薬を中止しておくほうが安全なようです。そのほか、骨からのカルシウムの溶け出しをブロックしてしまうので、低カルシウム血症が発生する場合もあり、ビタミンD製剤を併用する必要がある場合も多々あるようです。

 最後に、コストについて調べたことをあげて起きます。ここでは保険で負担してくれる額とあわせた総額、それも一年間続けた場合の費用について述べます。安いほうから並べていくと、フォサマック®(31,000円ほど)、ボナロン®、ベネット®、アクトネル®、リカルボン®、ボノテオ®、エビスタ®、ビビアント®、プラリア注®、ボナロン注®、ボンビバ注(60,000円強)と続き、テリパラチド製剤は二つとも640,000円ほど、つまりテリパラチド製剤は先発の薬剤の10倍~20倍の財政負担を強いるので、年金生活者には辛いものがあります。

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