2015年8月24日月曜日

地域医療夏季セミナー2015 in 浜坂

 8月の20、21、22の三日間をかけて、兵庫県の養成医師の卵うち16名を迎えて「地域医療夏季セミナー2015 in 浜坂」を開催しました。医学部の学生さんたちですから、即戦力になるわけではありません。しかし、普段はあまり見かけることのない20歳前後の若い医学生を迎えて、とても病院がにぎやかになり、活気が出てきました。20日の午後に病院に到着、簡単な挨拶と各部署の案内の後、私はいったん若い人たちから離れ、普段の業務を行いました。そして19時ごろ、庁舎の多目的ホールに町民のみなさんをお招きして、病院の紹介、学生さんからの発表、そして質疑応答を行いました。
会場の椅子の8~9割がたが埋まりました

 こうした行事には必ずと言っていいほど、「院長あいさつ」なるものがついて回ります。私は、ご存知の方もおられるかもしれませんが、あいさつなどが苦手です。内心ひそかに『皆さん、こんばんは。今日はよくいらっしゃいました。以上。』といったことで切り上げてしまいたい、などと思っていましたら、病院の事務方が私の意図を事前に察知したのか原稿を準備していました。自分でも不思議なのですが、学会でスライドを前にすると、30分が1時間になっても、別段プレゼンに困ることはありません。

 一般的に挨拶では、高々2分ほどしゃべれば言い訳で、学会発表の際でしたらスライド2枚分程度なので、簡単に覚えられるはずです。ところが覚えられない。どうやら、読み上げるべき原稿として私に手渡されたものが私自身の言葉で書かれていない、このことがかなり大きいと思いつきました。いくつか表現を普段の私の言葉に置き換えてみました。文章を短くして記憶への負荷を小さくもしました。それでも覚えるのが難儀です。もしかすると記憶障害?そういえば、当院の八幡君が受け持つ外来に認知症外来と言うのがあるといってました…
発表した学生チーム、八幡医師、岡山教授、土江参事

 結局悪あがきはやめて、読み上げることにしました。ああ、格好悪い!!それはともかく、夏季セミナーは成功裏に終わったと言っていいでしょう。なんといっても、多目的ホールでの講演会がほぼ満席になるとは全く予想できませんでした。そして町民の方々を交えた質疑応答も、中には学生さんたちをたじたじとさせるものもありましたが、町民の方々の医療への思い、浜坂病院への期待などがにじみ出ていて、私たちにとっても大いに励みになりました。

 翌日は学生さんたちを歓待して、バーベキュー大会を行いました。
ウマハギを3枚におろして刺身にする副町長


浜坂を支える100 t の漁船
ミュージシャンが来てくれて会を盛り上げました




浜坂漁港の一角をお借りできたので、時折ぱらつく雨を気にすることもなく盛大にバーベキュー大会を盛り上げることができ、学生さんたちにこの新温泉町の現状を強く印象付けることができたのではないでしょうか。
『歓待していただき、厚く御礼申し上げます』と医学生代表より
このような試みは来年以降も続けて行きたいと思っています。どうか、こうした私たちの取り組みにご理解とご協力を賜りますよう、お願いいたします。m(_ _)m

2015年8月13日木曜日

脊椎の構造と痛みの発生


 脊椎の形態、運動面で正確に機能している場合に痛みが起こることはありません。つまり、腰痛は脊椎の機能ユニットやその周辺のどこかで痛みに感受性のある組織が刺激を受けて興奮していることになります。それは脊椎の機能障害を示唆します。痛みを起こしている状態の大部分が腰椎と仙骨のなす角度が増大したことによります。これは脊椎前彎と言われる状態です。運動と無関係に起こる腰痛の75%が脊椎前腕を有していると言うことです。そのあたりのことを以下に詳しく述べます。

 脊柱は分節が連結したものです。各分節は、脊椎の中での位置によって形に違いがありますが、ごく一部を除いてとても類似しています。胸の部分は背骨から前のほうに肋骨が出ていて、大きな管のような構造になっており、比較的構造が保たれやすくなっています。問題は腰の部分です。加齢とともに筋力は低下してきます。そうすると、背骨の自然なカーブを保つために作用していた腹筋の筋力低下のために、腰の部分の背骨が前方に大きく湾曲するようになります。

 脊椎前腕の最大のポイントが仙骨と腰椎の間の角度が大きくなると言う形で現れます。この角度が大きくなると、腰椎が前方に辷る(すべる)と言うことが起こり易くなります(腰椎辷り症)。この辷り症を起こさない様にする自然の対策は椎間板を楔形にして、腰椎体が前方にすべる力に対してブレーキをかけることですが、そのために今度は椎体後面が直接接触する(kissing supine)と言うことが起こります。これまた痛みの原因になります。またもう一つ、痛みの原因となる事を考えなければなりません。

 背骨の後方を構成する骨の上下間の隙間(椎間孔)が狭くなり、神経が圧迫されると痛みや痺れが見られるようになりますし、運動神経が圧迫されると力が入りにくくなります。こうした事態を避けるには腹筋を鍛えておくことが重要です。何もへとへとになるまで筋トレをする必要はありません。起床時に足を20度ほど上げる(両足を同時に上げるほうが望ましい)、その際に上体も20度ほど起こして、お尻を真ん中にしてV字形に30秒保ってください。そうしたら30秒休んで、さらに30秒の腹筋、30秒休んでもう一度という具合に3回やってください。

 両足を挙上する時に上体も起こす理由は、足だけ挙上すると背骨がそっくり返って、その位置でロックされてしまい、ますます背骨のカーブがひどくなる可能性があるからです。この運動を2ヶ月も続けると、姿勢が良くなります。もしかすると身長も伸びるかもしれません。大きく前方にカーブしていた背骨が少しゆるいカーブになるからです。もしかすると、計測上ではわからない程度かもしれませんが、姿勢が良くなると、腰痛発生の原因のひとつを除去することが出来ます。

 骨盤牽引も良い対処法です。その際、骨盤下のストラップを牽引することで骨盤を挙上させ、前彎を減少させることが出来ます。骨盤牽引と言うリハビリテーションは、引っ張っているときは気持ちがいいけど、その時間が終わると元の木阿弥、そう感じている方が多いと思います。しかし、痛みと言うのはとてもデリケートな問題で、ちょっとした事で大きく変わってきます。私など、若い自分に何かに頭をぶつけてうずくまっていたときに、よちよち歩きの自分の子供がそばに寄ってきて、頭にもみじ葉のような小さな手を添えて『痛いの痛いの飛んで行け~』とやってくれたら痛みが退いて行ったと言う経験があります。かように痛みは微妙な気分に左右されるのです。

 ですから、リハビリの部署まで歩いていって、信頼できる理学療法士の指導を受けてリハビリに励むと、それだけで痛みがある程度和らぐ人が少なくないと思うのです。そして、毎日の積み重ねで気が付かないうちに仙骨の角度付けが小さくなり、腰痛を起こす原因の一つがある程度取り除かれていると言うことも考えられます。要は辛抱強い積み重ねなのです。そうした方法で痛みが取れない場合、薬物を局所に注入すると言う手段がとられることがあります。

 筋、靭帯、椎間関節から起こる痛みに神経脱落症状が同時に見られることはまれで、横突起間靭帯付近に局所麻酔薬を注射すれば痛みが消えることが多いと経験上わかっています。消えない場合、そのあたりを電気焼灼することで痛みが消退することもあるのですが、この電気焼灼はそれなりに複雑な手続きが必要ですので、当院では行っていません。

 腰痛の発生には、高血圧や糖尿病のように生活習慣に起因する面が多いので、どこそこに行けば治してくれる、などと考えないで、自分で出来るだけ腰痛発生の原因を減らして健康で快適な生活を送るようにする、これが一番大事です。常識的なことしか書けないでごめんなさいと言うところですが、自分の健康は自分で守る、それが一番快適だしお金もかかりません。

2015年8月7日金曜日

加齢と腰痛


 高齢者の宿命として腰痛があります。腰痛の原因としては様々なものがあり、Ehrlichさん(腰痛を専門としているお医者さん)によると世界中の様々な文化圏で同様な発生頻度を持っているそうです。そして病院や診療所を受診する際の最も一般的な理由だと言われています。急性腰痛は治療とあまり関係無しに3ヶ月以内に治まるとも述べています。これは外からの恒常的な刺激無しに組織の損傷が治癒していくのに要する期間と言い換えてもいいでしょう。一方慢性腰痛は様々な問題をはらんでいます。外科的な方法で問題解決を図ることも少なくありませんが、満足できる結果になることは少ないようです。

 もちろん腰痛の中には脊椎や骨盤とそれを囲む筋肉に原因が無いものもあり、そちらのほうには腹部大動脈瘤が急に大きくなって破裂間際と言う奴とか、内臓疾患で痛みが腰背部に放散するために生じたものなどもあり、致命傷となるものがありますので、全部が全部痛み止めの貼付剤を処方すればいいといった安易な対処では時としてとても具合の悪い事態になる場合があります。もっとも、長いこと同じような部位が同じような具合に痛むと言う場合には、そういったことは余り考えなくてもいいと思います。

 物理的な原因による背部痛には、バイク事故、転落、骨粗鬆症による圧迫骨折、長期間のステロイド処方を原因とした骨粗鬆症などが挙げられます。他には椎骨の感染、骨腫瘍、椎体への転移等もまれにはあります。こうした原因の特定できるものはEhrlichさんによれば全体の20%以下らしいのです。英国では背部痛が原因の欠勤が延べ1億日にのぼるとされています。原因がはっきりしない背部痛は、一般に立位の姿勢と関係していると思われていますが、そうではなさそうです。ただし、肥満と妊娠後期は脊椎の不自然な『曲がり』の原因になりえます。そのほか舗装道路上でのジョギング、車の座席に長時間座りっぱなしなどというのも背部痛を誘発します。

 一般に腰痛に対する治療としては以下のようなものがあげられます。
1.        非ステロイド性消炎鎮痛剤
2.        麻薬
3.        コルセット装着
4.        筋トレ、リハビリや体操など
5.        ステロイド性消炎鎮痛剤
6.        三環抗鬱剤
7.        中枢性筋弛緩剤
8.        温泉
 
 いずれの手段を用いても、目指す腰痛の解消に至ることはまれです。特に慢性の腰痛に関しては、まず痛みがなくなることはありません。

1. 非ステロイド性消炎鎮痛剤は一応痛みを自制内に押さえ込むことが出来ます。しかし長期連用で様々な問題を引き起こすのです。消化管の『荒れ』を予防するために、胃粘膜保護剤などを同時に服用する必要が出てきますし、長期連用で腎臓へのダメージが顕在化することもあります。またその種類によっては心血管系に良くない影響を及ぼすと言う報告もあります。

2. 麻薬はお奨めできません。うつろな瞳と震える手で『薬(ヤク)をくれ~』などといっている姿を想像してください。冗談はさておき、麻薬の副作用は多岐にわたります。消化管の蠕動運動が抑制されますので、便秘になりがちです。胆嚢も胆汁がたまって柿羊羹のようになることがあります。服用量を間違えると呼吸したいと言う気持ちが消えうせることもありますし、蕁麻疹やかゆみの原因になることもまれではありません。

3. コルセット装着で一時的に楽になりますが、筋肉が萎縮して行ってやがてコルセット無しではやっていけなくなります。しかも、廃用性に筋肉が萎縮すると、コルセットが骨に当たってそこが痛くなると言うことも起こります。長期にわたって装着すべきではありません。

4. 筋トレ、リハビリや体操はきちんとやればそれなりに効果があるのですが、きちんとやることが難しい。同じような、そしてある程度肉体的な苦痛を伴うことを長期間反復して行うことは、多くの人にとって難しいものです。筋トレやリハビリの最大の難点がそこにあります。

5. ステロイド性の薬剤もまた一時的な効果しかなく、ステロイド性糖尿病、ステロイド性骨粗鬆症、電解質異常、ホルモンバランス異常、感染症にかかりやすくなるなどの問題が噴出するので好ましい解決策とはいえません。

6. 三環抗鬱剤は睡眠のサイクルに対して影響してくるので、服薬の時間やタイミングなどに神経を使う必要があります。

7. 中枢性筋弛緩剤も効果が限られています。むしろ急性腰痛症(ぎっくり腰など)に使うべきかもしれません。これは一過性の筋力低下を伴うので、転倒⇒骨折と言う危険が付きまといます。

8. 温泉療法はわが国で発達したもので、リハビリ施設などでも用いられることがありますが、効果の客観的評価が難しいので、一般化されていません。しかし泉質の良いぬるめの温泉にゆっくり浸かると疲れが取れるのは間違いありません。この方法の最大の難点はコストです。私は井筒屋さんの屋上の温泉が大好きなのですが、食事などを注文しないでそ知らぬ顔をして利用するのはルール違反ですね。

 ではどうすればいいのでしょうか。いくつかの原因については、早めに予防することが出来ます。その予防とは骨粗鬆症にならないようにすることです。男性は加齢による骨格の脆弱化が女性よりゆっくりやってきます。女性は閉経に伴って、カルシウム代謝が大きく変化し、骨粗鬆症の発生に向かっていきますので、それを予防することが大切です。まず骨に必要なカルシウムをちゃんと摂取することが大切です。

 カルシウムは消化管から吸収されて、血液に溶け込み、体のいろんな部位で大切な役割を果たしていますが、血液中のカルシウム濃度が低いと骨からカルシウムを借りてきます。赤字国債のようなものです。血中カルシウム値が上昇したら借りた分を返すことも出来るのですが、消化管からの吸収率も低下してきますので、返却できるようにはなりません。ですから、私たちが出来るお手伝いは、まずカルシウムの吸収を良くし、体で利用しやすいようにすること、そしてカルシウムが不足するときに骨から借りてくるのを邪魔すること(銀行の貸し渋りにあたる)です。さらに骨の組織で新たに骨格構造を作っていくということも考えられます。

 こうした治療法を組み合わせながら何とか腰痛をなだめすかして生きて行く。そういったことしか言えません。しばらく、私が当院で向き合っている様々な痛みについて、述べて行きたいと思います。