2015年12月24日木曜日

虚血性心疾患:狭心症と心筋梗塞 – その3


供給される酸素と燃料(心筋では中性脂肪をよく利用します)の不足が深刻になると、心臓の筋肉は酸素消費量の少ないモードに移行しようとします。もちろん頭から心臓のペースをつかさどっているところには『もっと働け』と言う指令が届きますが、働くのに必要な兵糧が届かないと戦意喪失状態に陥ってしまいます。その状態が心室細動で、そんな状態になると個体は死んでしまうのですが、どんなに苦しくても心室細動にならないと言う固体がどこかで発生しない限り、心筋虚血に陥った際に心室細動に移行しないと言う進化の圧力は働きません。

ですから、心筋の酸素不足がある程度以上深刻になると、心室細動に移行してしまいます。もちろん心筋虚血の部位や範囲によっては心室細動に至らず、心筋壊死が生じることもあります。その場合には先に述べた亜硝酸剤を服用しても痛みが去らず、強い痛みを訴えながら循環器か専門病院に救急搬送されることになります。一方心房にある心臓のリズムをつかさどる指令塔(洞房結節と言います)から二次指令塔(房室結節)を経て心室に指令を届ける経路のどこかに小さな心筋梗塞が発生すると、不整脈と言われる状態になります。どこが侵されるかによって不整脈の種類が異なります。

 現在狭心症や心筋梗塞に対する治療としては、その病状の深刻さにもよりますが、カテーテルを用いた治療が一般的です。カテーテルとは細い管で、X線透過性のない素材で出来ていて、透視画像を見ながら血管内を進めていき狭窄のある部位にたどり着いたら先端にある風船を膨らませて狭窄を押し広げます。そして広がったところにステントと言われるつっかえ棒を入れて、せっかく広がったところがまた狭くならないような手段を講じるのです。

 人によっては冠動脈の細いところが何十箇所も狭窄を起こしていて、ステントで対応できないものもあります。そうしたケースでは心筋のいたるところで部分的な繊維化が進んで段々動きが悪くなってきます。動きが悪くなると、代償製に心臓がサイズ・アップするのですが、基本的に幸せな経過を辿りません。そうした心筋に対する外科的な介入としては現在でも数十本の血管吻合は実際的ではありませんので、心臓移植が最も理に適った方法となるようです。


2015年12月9日水曜日

虚血性心疾患:狭心症と心筋梗塞 – その2


 食べたものが吸収されて血流に乗ると、余剰の成分がいろんなところに取り込まれるのですが、そこに別の要素が加わると、血管内にその余分な成分が蓄積しやすくなります。別の要素とは、大体ご想像のとおりだと思いますが、飲酒、喫煙、運動不足、糖尿病などの生活習慣病、ストレス、睡眠不足、偏った食習慣、そして本人に全く責任のない遺伝的素因などです。ストレスだって本人に責任はない?しかし数十年も日本の社会で生きているのですから、ある程度のストレス発散・回避の術は身につけておくべきではないでしょうか。

 体を走り回っている血液の通路たる血管にほころびが生じた場合、道路工事の作業員のような役割を果たすものが出てきてそこを何とかする、という都合のいい話はありません。血流障害が少しずつ進行した場合には、一応道路工事のバイパスに当たる血管のバイパスが出来ます。最も有名なものは『メドゥーサの頭』と言われるもので、肝硬変になって肝臓の血流が著しく悪化すると、本来肝臓を通って消化吸収されたものの一時処理をする部分をバイパスして腹壁の静脈に血流が逃げます。そして心臓に還っていく。その人の上半身を診ると、腹壁をまるでメドゥーサの頭のように血管が蛇行しているのが観察されます。

心臓の筋肉の間を縫って走る冠動脈にも、もし動脈硬化性病変で狭窄が出来た場合、それがゆっくり出来ていく場合だと、血流の不足した部分にそのバイパスが出来ていきますので、その状態で狭窄の程度がひどくなっても心筋の酸素要求量は、安静にしている限りそのバイパスで賄えます。しかし急ごしらえのバイパスでは、酸素要求量に合わせて血流を調節する機能が不十分であり、激しい運動などに晒されると心筋の酸素要求量が大幅に不足します。

 酸素が不足すると、一般的には狭心症と言われる症状が発生します。つまり胸がやたら痛くなる。胸から背中にかけての放散痛だったり、みぞおちの辺りが痛んだりと、痛みの場所は一定しませんが、かなり辛い痛み(自分自身の経験がないので、痛みの性状などを自分の言葉で書くことが出来ません)のようです。その狭心痛には亜硝酸剤が良く効きます。この服用なしでも痛みは多くの場合10分かそこらで治まります。

  次回は虚血性心疾患の治療に触れたいと思います。

2015年12月2日水曜日

虚血性心疾患:狭心症と心筋梗塞 – その1


 心筋梗塞というととても恐ろしい病気だ、そういった認識は多くの人にいきわたっていると思います。その心筋梗塞ととても近い病気として狭心症があります。その怖い病気について述べますので、できるだけ危険を回避するような生活を心がけてください。この項をお読みになって生活習慣が多少とも変り、虚血性心疾患になる人が少しでも減れば望外の喜びです。

 人の血管は全部をばらばらにして一本の管につなぎなおすと、10万キロほどになるそうです。その10万キロの血管は、もちろん新生児の頃には少し短いわけですが、加齢とともにだんだん痛んできます。台所の配水管を時々『パイプマン』などを使ってクリーニングした経験は御ありでしょう。配水管の内周に分厚く堆積した『汚れ』をこのパイプマンでお掃除しているわけです。そして配水管内の汚れは主に廃油由来です。

 当然のことですが、油をたくさん使う料理をする過程のほうが、配水管が短い時間で詰まります。一方油をたくさん使った料理をしても、余った油を新聞紙などでふき取ってそれを可燃ごみに回し、シンクに油が余りいかないようにしてからフライパンを掃除すると言う細やかな神経を使う過程ではパイプマン出動の回数が激減します。このような譬えは血管の内側に着く汚れ(=動脈硬化)をそれなりに説明していますので、まずそのことを踏まえて置いてください。

 ただし、私たちは食生活で廃油のようなものを血管内に流し込んでいるわけではありません。デンプン、蛋白、脂質、そして微量な栄養素を食物の形で消化管に取り込み、消化して細かい成分に分解し、それを消化管を走行している血管内に取り込み、肝臓に送り、そこで使い勝手がいいように加工して全身に送っているのです。もし消化吸収の段階で、体に充分存在するものを取り込まないなどのメカニズムが備わっていたら、いくら食べてもそれが原因で血管などの病気になる心配はないのですが、そんな人にはお目にかかったことがありません。

 『ギャル曾根がいるじゃないか』と言う声が聞こえてきそうですが、彼女の場合は必要な栄養素もなかなか吸収しないので、食糧事情の悪かった大昔であれば、生存し続けることが難しかっただろうと思います。もしかすると人によっては多少とも栄養素を選択して吸収する人がいるかもしれません。毎日卵を56個食べてもコレステロールの代謝が正常な人などが稀にいるからです。でも、多くの人は食べた分を吸収してしまいます。だから肥満が問題になるわけです。