2015年5月22日金曜日

野菜を食べよう

 熱力学と言う学問の分野があります。私が昔大学の一年生だった頃(私は穀潰しで二つの大学を卒業したのですが、この話は一つ目の大学でのことです)、履修単位のうち、英語のテキストにC.P.Snowという人の『二つの文化』と訳するべき英語のテキストを読むのがありました。このC.P.Snowという人は英国政府の、わが国の言葉で言えば、文部大臣を歴任した人で、自然科学関係の仕事をしてきた人です。そのテキストの中に今でも覚えている(もちろん日本語で)フレーズがありました。誰かがオクスフォード大学の構内で遠くにいる誰かを指差しながら、『彼がオクスフォードが誇る秀才だ』と発言します。そしてその秀才の卒論は古代ギリシャの悲劇詩人の作品に関係したことでした。Snowさんは言います。『ここに現代英国の悲劇がある』。

 英国で高等教育を納めた人にシェークスピアについて何かしゃべらせようとすると、滔滔と自説を開陳するのに、熱力学の第二法則について尋ねても、まともな返事が帰ってくることは無い、と後に続きます。当時私は熱力学の第二法則、またの名をエントロピー増大の法則、について確信を持って説明することが出来ませんでしたので、「そう仰っても…」とやや恥じ入りながら、口ごもることしか出来ませんでした。ガソリンエンジンを魔法瓶のように外と熱の出入りの無い素材で作り、同じく熱を通さないピストンで内部の空気を圧縮していくと考えましょう。現実にはありえない条件で、頭の中で実験を進めることを『思考実験』と言います。

 そうした熱的に隔離された状態で空気を圧縮したり、逆に空気の体積を大きくすることで内部の温度が変わってきますが、その内部の気圧変化を非常にゆっくり起こるようにすると外から加える力(そしてその力によって行った仕事)が、完全に可逆的にはなりません。その非可逆的な部分がエントロピーと言われる、エネルギーのゴミ捨て場のようなものになります。100℃の水100mlと0度の水100mlを内部が仕切られた水槽の各々の区画に注ぎ、その後で仕切りをそっとどかすと、その水槽が周囲から熱的に隔離されていたら、時間とともにその水槽内部の水の温度は50度に近づいていきます。

 100度と0度の二つに分かれているときにはその熱の差を利用して何らかの仕事をさせることが出来るのですが、50度200mlになってしまうと、全体としてのエネルギー量は同じなのに、もう何の仕事も出来ません。もちろん、その水槽の外部にある0度の環境に対しては仕事をすることが出来るのですが、それはまた別の問題になります。熱的に平衡に達してしまったら、もう仕事をすることが出来ません。一つの系がだんだん熱平衡に達していく過程を『熱力学の第二法則』または『エントロピー増大の法則』と言います。生命体はそのエントロピーが熱平衡に達したときに完全に死亡するわけです。

 ここで言う死亡とは、どんなことをしてもその『元生命体』から生命の復元をすることが出来ない状態になることです。つまり、どこかに生きている細胞などが残っていてその細胞を培養してもう一度生命体を作り出す、と言うことが不可能になった状態です。70Lほどの水を先ほどのように100℃35Lと0℃35Lから作るとすると、それが熱平衡に限りなく到達するのに必要な時間は数時間、せいぜい数日間であり、80~90年の時間をかけてやっと熱平衡に達するということはありません。

 では体重が70kgの人間はなぜ単純な水の熱平衡に要する時間よりもはるかに長い時間を生きるのでしょうか。多くの人がその疑問に答えあぐねていましたが、『ネガ・エントロピーを食べる』と言った人がいます。つまり外部から負のエントロピーをもった食物を食べて、熱平衡に達しようとする自分自身を健全な状態に引き戻していると言うのです。その話を聞いたときに、うまいことを言うなあと思いました。胚芽から芽を地面の外に出して、太陽の光を浴びながら光合成をしてエントロピーのとても低い状態の栄養素を溜め込む。その低エントロピーの栄養素を食べて、私たちは自分のエントロピー増大を食い止めている…

 大地の恵みをたくさん食べましょう。それはきっと私たちの体の、増大したエントロピーを下げてくれるはずです。余談ですが、後にこのエントロピーと言う概念は様々な分野で遣われるようになりましたので、現代の文科系出身者で『エントロピー増大の法則』と聞いて、何のこと?とレスを返す人は少数派です。しかしそれが19世紀の広範に発達した熱力学に由来することを知っている人は、これもまた少数派です。

2015年5月12日火曜日

カマンベールチーズは認知症を予防する

 ネットで遊んでいて、チーズに関する記事を見つけました。面白かったので、コピーしてご紹介しましょう。以下がそのコピーです。

 『キリン株式会社の基盤技術研究所(所長 近藤恵二)は、小岩井乳業株式会社(社長 堀口英樹)、国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科と共同で、カマンベールチーズの摂取がアルツハイマー病への予防効果があることを確認し、さらに、その中に含まれる有効成分として、オレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールを発見しました。この研究成果は米国科学誌「PLOS ONE(プロスワン)」に2報に渡る論文として掲載されます。

日本国内では急速な高齢者の増加に伴い、認知症は社会的な関心事となっています。現在、日本で460万人、世界で2400万人近くが認知症を患っているとされています。しかし、アルツハイマー病に代表される認知症には十分な治療方法が開発されておらず、日々の生活を通じて予防する取り組みが注目を集めています。食による健康の増進に取り組むキリングループでは、近年急速に解明が進んでいる脳科学の領域の研究を進めています。そして今回、カマンベールチーズの摂取によるアルツハイマー病への予防効果のメカニズムを初めて明らかにしました。

チーズなどの発酵乳製品を摂取することにより老後の認知機能低下が予防されることは、疫学の分野ですでに報告されていますが、認知症への予防効果のメカニズムや有効成分は分かっていませんでした。今回の研究ではこの点に着目して、市販のカマンベールチーズの摂取によるアルツハイマー病への作用を検証しました。その結果、アルツハイマー病モデルマウスにカマンベールチーズから調製した餌を摂取させると、脳内のアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの沈着が有意に抑制され、脳内の炎症状態が緩和されることが確認されました。


さらに今回、有効成分としてカマンベールチーズにオレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールが含まれていることを発見しました。オレイン酸アミドは、脳内のアミロイドβなどの老廃物を除去する役割を担うミクログリアと呼ばれる細胞を活性化しながら抗炎症活性を示す成分です。また、デヒドロエルゴステロールは、抗炎症活性を示す成分です。これらの成分は、乳の微生物による発酵過程で生成されたと考察しています。』

 以上がプレス・リリースのコピー(一部端折りました)です。チーズは発酵食品の一つで、様々な種類があります。カマンベールチーズはフランス・ノルマンディ地方で誕生したものと聞いていますが、表面を白カビが覆っていて、そのカビが乳成分のあるものを分解して、独特の風味を生み出しているようです。カビの種類によって様々なチーズが作られます。多種類のチーズの中でカマンベールは比較的食べやすいほうですが、中にはプロセスチーズ以外は駄目という方もあると思います。

 わが国では発酵食品というと、醤油、味噌、納豆から始まり、様々ななれ寿司、くさやの干物など多岐に亘りますし、お酒も発酵食品の一種です。ですから、発酵食品を受け入れる素地は出来上がっていると思います。それに、牛乳を直接飲むと、其処に含まれている乳糖による糖毒性が近年明らかになってきているようで、酵母によって乳糖が乳酸まで分解されたほうが、健康にはよさそうです。幸い、このところカマンベールチーズをはじめとした各種チーズの値段もこなれてきていますので、晩酌の際につまむ小皿の一品にカマンベールチーズを加えてみたらどうでしょうか。