2016年2月12日金曜日

弁膜症の外科的治療 - 1


 心臓弁膜症というのはあいまいな病名で、心臓内にある4つの弁のどれか一つもしくは複数が不都合な働きをしている状態を指します。この病名からはどのような治療手段が必要かといったことは全く分かりません。心臓の中に4つのお部屋があり、4つの弁があります。心房と心室の間の弁(房室弁といいます)、心室と動脈の間の弁(肺動脈弁と大動脈弁です)ですが、一般に左心室に関係した弁の不具合のほうが症状の出方が深刻です。

 これらの弁に不具合が生じて手術的に治療しなくてはならなくなった場合、心臓の一部を切開して弁に手を加えますので、心臓が程度の差はあれ、必ず機能不全をこうむります。心臓は筋肉で出来ていて、その筋肉が収縮することで役目を果たしています。その筋肉を切断するのですから、その部分は役目を果たせなくなり、当然の機能低下です。しかも、これは冠動脈の手術と異なり、人工心肺を使った手術になりますので、その負荷も大きくのしかかってきます。つまり、手術のあとも、その影響が長いこと尾を引くのです。

 では、その弁膜症はどのように診断するか。まず、『この人は弁膜症ではないか』と疑いを持つことが必要です。そうでないと、心不全でひっくり返るまで気付かれなかったなどという事になるのです。どのようにして弁膜症の疑いを持つか。それは普段診療所などで診察を受ける際の聴診です。心臓にある弁のどれかに異常があると、その異常個所で血流にいつもとは異なる乱流が生じ、また血流の停滞などが生じます。その乱流や独特な血流が心音の異常として聞こえるのです。

また、それ以外にも筋力がもともと弱い右心室に負荷が強くかかると、右心室の収縮に少し余分に時間がかかるようになります。それは弁が閉まる音が左右で違うタイミングに聞こえると言う現象となりますので、これも心臓に問題がある時の一つの診断基準となります。普段はほとんど動脈弁の閉鎖音は左右でずれないのですが、呼吸によってそのずれがわずかに変動します。ところが、右心室負荷が強いとその動脈弁の閉鎖音が常に二つ分かれて聞こえます。私たちはそれを『II音の固定性分裂』などと呼んでいます。

 そうした弁疾患の疑いを持ったら、次は画像による検査です。いろんな方法が考えられますが、一番簡便で体へのダメージが小さいのは心エコー検査でしょう。これで心臓の4つの弁の動きが観察できます。そして心臓のその時点での働き具合を心臓カテーテルと言う検査手段で検査します。心臓はこの先増加するはずの負荷に耐えられるか?いつごろ具合の悪いことになるか?そういったことを考えながら手術のタイミングを詰めていくのです。


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