2016年8月22日月曜日

肥満は脳の老化を早める?


 私たち医療従事者が良く閲覧しているSNSの中に『ケアネット』というのがあります。そのSNSに興味深い記事が掲載されていました。私たちの生活習慣の中で、代謝が年齢とともに低下するのに食欲が低下しない人に特有の問題、つまり肥満がかなり広範囲な影響を及ぼしていることを示唆する研究が発表されたのです。以前から肥満に対して様々なことが言われています。曰く『肥満の人は糖尿病にかかりやすい』、曰く『糖尿病の人は認知症になりやすい』、曰く『肥満の人は心血管系の疾患を患いやすい』、曰く『肥満の人は脳血管疾患になりやすい』、曰く『肥満の人は痛風になりやすい』、曰く…きりがないからこのあたりでやめておきます。さて以下にその記事の抜粋を示しておきます。

 『新しい研究で、過体重や肥満の人では、中年期から脳の老化が早まっている可能性が示された。この研究は、過体重が脳の白質にどのような影響を及ぼすのかに焦点をあてたもの。白質は脳領域どうしの情報伝達に重要とされる部位であり、加齢とともに縮小することが知られている。しかし、今回の研究では、50歳の過体重および肥満の人の白質量は、60歳の標準体重の人と同程度であることが判明した。ただし、この研究では肥満と老化の加速との因果関係は証明されておらず、肥満者と標準体重の人で認知機能に差はみられなかったという。

 今回の研究では、ケンブリッジ地域に在住する精神的に健康な2087歳の男女500人強を対象に調査を行った。対象者のうち約半数が標準体重で、約3割が過体重、約2割が肥満であった。MRI検査で対象者の脳構造を評価したところ、過体重や肥満の人では、標準体重の人に比べて白質量が減少していることがわかった。年齢別の解析により、中年期の過体重や肥満の人の白質量は、10歳年上の標準体重の人と同程度であることも判明した。この「10年の格差」は中年期以降の対象者でのみ認められ、2030歳代ではみられなかったことから、加齢に伴って脳は体重増加による悪影響を受けやすくなることが示唆されたと説明している。

 ただし、現時点ではBMIの増加と白質量の減少がどのように関連しているのかは明らかにされていない。「過体重や肥満であることが脳に変化をもたらすのか、脳の変化が脂肪細胞を増やしているのかも不明だ」と、同氏は指摘しており、「減量すれば脳への悪影響を減らせるかどうかも結論づけるのは難しく、今後検証していきたい」と述べている。

 この知見は、「Neurobiology of Aging」オンライン版に727日掲載された。』

 肥満の人が糖尿病(Ⅱ型)になりやすいのは以前から明らかになっていたことで、糖尿病の人が認知症になりやすいのも統計的に明らかになっています。それだったら、肥満で脳の機能が低下するのは必然的に導き出されるとも思うのですが、この研究は肥満が直接に脳の白質量が低下することを示したところにあると考えます。医学や医療に関係した基礎的な研究は本当に少しずつ、カタツムリのように進んでいくのですが、気が付いてみるとずいぶん遠くまで来たものだと思うことがあります。

 60年以上昔の話ですが、私の祖母が脳出血で半年間寝たきりの生活をしていたころ、当時は静脈内に輸液するという概念がなかったか、あるいは田舎までそうした斬新な思想が行渡らなかったからか、彼女は大臀筋に生理食塩液を毎週一回『筋肉注射』されていました。相当痛かったようで、注射の間中大声で痛みを訴え続けていました。今は静脈内に直接輸液製剤を注入するというだけでなく、様々な病態に合わせて多くの種類の輸液製剤が利用可能です。

 当時の医療界から今日の医療を眺めてみると、昔は死の病だった腎臓病が今は透析という手段で対処可能になっています。若い人に対してだと、腎移植も選択肢に入っています。それどころか心臓移植も大騒ぎするようなことではなくなっています。様々な「原因不明」の疾患の原因が解明されてきており、癌の薬物療法もかなりの種類の癌に対して有効なものになってきています。

 最新の様々な知見をこれからもご紹介していきます。それらの知見を実生活に導入して、健康な生活をするか、それともそれらを無視して気ままに生きるか、それは読者諸氏が自分の責任で決定すべきことで、それについてとやかく言うつもりはありません。しかし、毎日たばこを20本も吸って、ごはんをドカ食いして、糖尿病と慢性閉そく性肺疾患(COPD)を患い、どうにもならなくなってから、病院を受診して「元の体に戻してくれ」と言われても我々に手の打ちようはありません。そのあたりのことはよく考えたうえでご自身の生き方を決めて行っていただきたいと思います。