2016年11月3日木曜日

老後の趣味としての写真


 私は大学を二つ卒業するという親不孝なことをしていますので、医学部での友人たちはみな私より若く、元気です。その友人たちから時折受ける相談というのは、父親の定年時に何かプレゼントしたいけど、何が喜ばれるかというものです。彼らの父親と私が年齢が近いということを暗に言いたいのではないかと勘繰ったりしていますが、純粋にそういった疑問を解決すべく私に尋ねているだけなのかもしれません。

 私はその質問に対しては『デジカメ』と答えることにしています。ある程度重たい、しかし重過ぎて持つのが嫌になるようなものは避ける、という注釈付です。重たいデジカメとなると本体だけで1.5kgほど、野鳥などを撮影しようと思うと、バズーカ砲みたいな形をした6kg程度のレンズをそのカメラに装着し、やはり6kgほどの三脚に乗っけるという重労働を厭わないようにする必要があります。

 そういった苦行は若い頃に始めて、お金が出来るに従ってだんだんステップアップするというスタイルをとらないと、買ってもらっても決して長く続けることはありません。第一、フィールドに出るだけで疲れ果ててしまうのです。レンズ込みで1kg前後、最近流行のミラーレス一眼というのが狙い目でしょうか。1kgというのはそのカメラを持つことが筋トレになるという効果も考えての上です。そういったカメラを手に、お父君が何かを撮影してきたら、とりあえず自然な形で褒める、これを忘れてはいけません。

特に自然を撮影したものを褒める、そうすることで野山を歩き回って木花とか山や川を撮影する機会が増えるでしょう。そのことが足腰の鍛錬になり、認知症予防につながり、いつしか写真も上達するものです。もし何らかのコンテストで手ごろなものがあれば、それに応募するというのも有効だと思います。入賞すれば嬉しいので、きっと写欲が湧く、するとますます被写体を求めて歩き回る、健脚になる、行動範囲が広がる、といった具合に万事が良い事尽くめになるかもしれません。

しかも、奥さんの立場からすれば、退職して家に一日中いられたらたまったものではありません。亭主元気で留守が良い、というわけです。ですから元気に日中の山を歩き回って、沢山写真を撮って帰宅する。夜はその写真をPCで確認しながら整理するという作業をこなすことになりますので、その面からも認知症予防に大きく貢献することは間違いありません。高齢になってから、そんなハイテクな事など分かるはずがないなどと考えずに、一緒になって写真の評論などしてあげましょう。

 ここで一言注意事項を。お父君の写真を褒めるときに、褒めすぎてはいけません。昔私の後輩が写真に少し入れ込んでいたときの事、一枚の写真を見て私が『諸君、脱帽し給え!ここに天才が現れた』と言ったらひどくむくれました。あからさまな、聞くまでもなくお世辞(と言うより、むしろ嘘)と分かるような褒め言葉は禁物です。自然な形で、『ここはもうちょっと○○したほうがいいね』などという批評も加えながらでないといけません、やや高級な技になりますが。しかし考えてみてください。自然経過として筋力が弱っていき、何時か寝たきりに成るその日を少しでも先延ばしにすることが出来るかもしれないことですから、一生懸命ご老人のやる気を出させてください。