2017年12月27日水曜日

忍び寄る暗殺者

 本人に全く被害を受けたという意識がない状態を保ちながら少しずつ体に毒を注ぎ込むという、巧妙な手口で人を殺害したり、もしくはADLを極端に悪化するような刺客がいます。この平和な国・日本に。そういえば、明治のおしまいの方か大正時代に、夫を毒殺したという事件があったそうです。コロッケにヒ素を混入して毎日亭主に食べさせたとかで、それがニュースとして全国に知れ渡り、コロッケの唄が流行したという話を聞きました。思い違いかもしれません。毒物混入というと、ヒ素カレー事件が新鮮ですね。

 しかしここでご紹介するのはもっと違う刺客、糖質です。糖質がなぜ刺客になるのか?そんな疑問を持つ方は少なくないでしょう。血液中に糖質として存在する、そしてエネルギーのもとになる糖質の代表がブドウ糖、これは6つの炭素が互いに結合して輪状になっています。そして各々の炭素に酸素と水酸基(OH)が結合しています。しかし血液中で0.01%程度が、輪状ではなく直鎖上になっています。その直鎖のブドウ糖は終端の一方がアルデヒド基になり、お酒の最初の代謝産物・アセトアルデヒドとよく似た生物活性を持っています。

 アルコールに強い人、弱い人があるように、直鎖アルコールのアルデヒドの攻撃に強い人と弱い人がいるのは考えられることです。糖尿病と診断されてあまりHbA1cが良いデータを示さないのに、いわゆる糖尿病の合併症を引き起こさない人がいるのはそのあたりの事情があるのかもしれませんね。その直鎖型のブドウ糖(アルドースと言います)は分子量がある程度大きいので、体内を自由に行き来できません。アセトアルデヒドより行動範囲が狭いのです。

 生物活性の強いアルデヒド基を持つアルドースは血管内皮を傷つけます。そして炎症のために様々な炎症生成物が発生し、やがて動脈硬化として完成を見るのです。その動脈硬化はおかゆのように表面が不安定で、何らかの刺激で一部がはがれて血流に乗って飛んで行ってしまうと脳梗塞や心筋梗塞が起きます。そうしたトラブルが起きなくても、血管にお粥のようなものがくっついていると、そのために血液が流れにくくなり、血液不足をきたした部分がそのために壊死してしまうのです。血管が詰まりやすいのは細い血管で腎臓の糸球体の血管などは攻撃の対象になりやすいのです。

 ほかにアルドースの攻撃対象は眼底の網膜近辺や体から離れた部分の毛細血管。従って、糖尿病の人では失明、下肢の切断、腎不全(透析に至る)が起こりやすく、実際糖尿病の合併症としてそうした疾患が取りざたされます。糖尿病とその合併症は交通事故やインフルエンザのように何時罹患し、いつ治癒したというようなはっきりした変化を自覚しませんので、今日おまんじゅうを食べても大丈夫、とかラーメンの一杯で病気になる訳ではない、と考えてしまいますね。こうした無関心や油断が糖尿病をいつの間にか立派な暗殺者に仕立て上げてしまうのです。

 刺客は炭水化物に姿を変えて忍び寄ってきます。血糖値が140を超えると体に悪さをするので、住民健診などで空腹時血糖を測定してもあまり意味がないのです。食後30分、1時間、90分、2時間、150分後の血糖値を見て、その人の血糖値が食事によってどのような時間経過をたどるか、それを知ったうえで食生活の改善方法を提案するのが有効です。そして糖尿病、特にその初期には食生活と生活習慣の改善がどんな薬よりも有効です。

 今は15分ごとに血糖値を測定してくれる装置が一昔前と比べるとびっくりするほど安価に手に入るようになりました。2週間の間15分おきに勝手に測定してくれるので、その間何時何分に何をどれだけ食べたか、その記録をつけておけば後でどのような食べ物が血糖値を上げやすいか、よくわかると思います。糖尿病になる前の人出はこの機械を保険で使うことができないのが難点ですが、一回の測定が7000円ほど(2週間で)ですので、家族での外食を一回我慢すれば十分賄えます。一家の大黒柱が糖尿病で倒れるリスクを考えたら、この程度の投資には十分意味があると思います。

 毎日500円の高価な薬を飲むよりも、毎日5000歩でよいから速足で歩く、ご飯のドカ食いをしない、などの方が体が軽くなるし、余計な出費を避けるという意味でもはるかに有効です。医療機関の収益にはなりませんが、ぜひご一考を。

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